通所介護における個別機能訓練加算は、利用者一人ひとりの身体状況や生活目標に応じた機能訓練を提供することで、自立支援と生活の質向上を目指す重要な加算です。「算定が難しそう」「書類が複雑」といった声も聞かれますが、基本的な要件と流れを理解すれば、決して難しい制度ではありません。
本記事では、個別機能訓練加算の基本から算定要件、2024年度の最新改定内容、そして実務で必要となる書類や手続きまで、具体的かつ実践的に解説します。この記事を読めば、明日からの実務にすぐ活かせる知識が身につき、自信を持って加算算定に取り組めるようになります。
目次
個別機能訓練加算は、通所介護において利用者の心身機能の維持・向上を図るため、個別に計画を作成し、機能訓練をおこなうことを評価する加算制度です。
- 個別機能訓練加算(Ⅰ): 56単位/日
- 個別機能訓練加算(Ⅱ): 85単位/月
個別機能訓練加算(Ⅰ)は、日常生活動作(ADL)の維持・向上を目的とした訓練に対する評価です。加算(Ⅱ)は、より専門的で個別性の高い訓練を実施する場合に算定できます。両方を併算定することも可能であり、その場合は合計141単位/日となります。
この加算制度は、単なるリハビリテーション訓練ではなく、利用者の「できるようになりたいこと」「したいこと」を実現するための機能訓練を重視しています。例えば、「孫と一緒に買い物に行きたい」「自宅の階段を安全に上り下りしたい」といった生活目標の実現に向けて、必要な身体機能を訓練することが求められます。
ADL維持等加算や生活機能向上連携加算など、類似した加算がありますが、個別機能訓練加算は最も基本的で取り組みやすい機能訓練の評価制度です。専門的なリハビリ職の常勤配置が不要であり、看護職員や柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師なども訓練を担当できるため、多くの事業所で算定可能な制度となっています。
個別機能訓練加算の算定要件は、段階的に整理すれば決して難しくありません。以下、(Ⅰ)と(Ⅱ)それぞれの要件を具体的に解説します。
1.人員配置
2.訓練内容
3.計画書の作成
1.人員配置
2.訓練内容の特徴
3.多職種連携
まず、利用者の「したいこと」「できるようになりたいこと」を丁寧にヒアリングすることが重要です。抽象的な目標ではなく、「スーパーで買い物をしたい」「お風呂に一人で入りたい」といった具体的な生活目標を設定しましょう。
次に、目標達成のために必要な身体機能を分析します。例えば、買い物という目標には、歩行能力、バランス能力、握力、持久力などが必要です。これらの機能を向上させる訓練プログラムを組み立てます。
記録は簡潔で構いません。訓練内容、利用者の反応、変化などを記録し、3ヵ月ごとに評価・見直しをおこないます。完璧を求めすぎず、継続できる記録方法を確立することが大切です。
2024年度(令和6年度)の介護報酬改定では、個別機能訓練加算について重要な見直しがおこなわれました。
1.生活機能の向上を重視する方向性の明確化
2.科学的介護推進の強化
3.多職種連携の重要性
改定内容を踏まえ、以下のような対応が推奨されます。
まず、利用者の生活環境をより詳細に把握することが重要です。加算(Ⅱ)での居宅訪問はもちろん、加算(Ⅰ)においても、家族からの情報収集や居宅介護支援事業者との連携により、生活実態を把握しましょう。
次に、訓練の効果を測定する仕組みを整備します。歩行距離、立ち上がり回数、握力など、客観的な指標で効果を測定し、記録します。これらのデータはLIFEへの提出にも活用できます。
また、多職種カンファレンスの機会を定期的に設けることで、利用者の状態変化や訓練の進捗について情報共有し、より効果的な支援につなげることができます。
単位数の大きな変更はなかったため、既に算定している事業所への影響は限定的です。ただし、質の向上と適正な運用がより求められるようになったため、記録の充実と定期的な評価・見直しの徹底が重要となります。
個別機能訓練加算を算定するために必要な書類と事務手続きを、時系列で整理します。
必要書類
作成の流れ
日常的な記録
記録のポイント
毎回詳細に記録する必要はありませんが、訓練内容、利用者の反応、変化などを簡潔に記録します。特に、計画と異なる対応をおこなった場合や、利用者の状態に大きな変化があった場合は詳細に記録しましょう。
必要な手続き
評価のポイント
目標の達成度を確認し、新たな目標設定や訓練内容の変更をおこないます。目標が達成された場合は、より高い目標を設定することも、新しい生活課題に対する目標を設定することもできます。
保管が必要な書類
保管期間と方法
介護保険法に基づき、サービス提供記録は完結日から5年間保管が必要です。電子データでの保管も可能ですが、必要時に速やかに出力できる体制を整えておきましょう。
請求前に以下の点を確認します。
これらの確認をチェックリスト化することで、請求ミスや算定漏れを防ぐことができます。
A:はい、算定可能です。複数の利用者に対して同時に訓練を実施する場合でも、一人ひとりに個別の計画があり、それぞれの目標に応じた訓練内容が含まれていれば問題ありません。ただし、全員が同じ内容の体操をおこなうだけでは、個別性が認められない可能性があります。
A:加算(Ⅰ)の場合は常勤である必要はありません。非常勤でも算定可能です。ただし、加算(Ⅱ)の場合は、サービス提供時間を通じて専従の機能訓練指導員を配置する必要があります。
A:明確な時間規定はありません。利用者の状態や訓練内容に応じて、無理のない範囲で設定します。5分程度の短時間でも、目標に応じた内容であれば算定可能です。重要なのは時間の長さではなく、計画に基づく訓練が実施されていることです。
A:厚生労働省が示す標準様式がありますが、必須ではありません。必要な項目(目標、訓練内容、頻度、期間、評価時期など)が含まれていれば、事業所独自の様式でも構いません。
A:はい、両方の要件を満たせば併算定可能です。その場合、合計141単位/日を算定できます。
個別機能訓練加算は、基本を押さえれば決して難しい制度ではありません。利用者の「したいこと」を実現するための訓練を計画的におこない、適切に記録することで、自信を持って算定できます。この記事で解説した要件と手続きを参考に、明日からの実務に活かしていただければ幸いです。