療養通所介護における個別送迎体制強化加算は、2021年度の介護報酬改定により廃止された加算の一つです。しかし、この加算の算定要件や廃止に至る経緯、そして廃止後の対応について正確に理解することは、療養通所介護事業所の運営にとって重要な意味を持ちます。
本記事では、個別送迎体制強化加算の概要から廃止後の現状まで、療養通所介護の送迎体制について包括的に解説します。過去の算定誤りや返還事例を避けるためにも、この制度変更の詳細について確実に把握しておきましょう。
個別送迎体制強化加算は、2018年度の介護報酬改定で創設された療養通所介護専用の加算でした。この加算は、医療ニーズが高く重度の要介護者を対象とする療養通所介護において、より手厚い送迎体制を確保することを目的として設けられました。
加算の単位数は片道につき100単位と設定されており、往復利用の場合は200単位を算定することが可能でした。この単位数は一般の通所介護の送迎減算(片道47単位)と比較すると非常に高く設定されており、療養通所介護の特殊性と高い医療ニーズに配慮した報酬体系となっていました。
算定要件として、まず利用者の身体状況や医療処置の必要性により、個別の送迎が必要と認められる場合に限定されていました。具体的には、人工呼吸器装着者、酸素療法実施者、中心静脈栄養実施者、経管栄養実施者などの医療的ケアが必要な利用者や、重度の認知症や精神症状により集団での送迎が困難な利用者が対象となっていました。
また、看護職員又は介護職員が同乗することが必須条件とされており、送迎中における利用者の安全確保と医療的ケアの継続が求められていました。さらに、個別送迎を実施する合理的な理由があることを居宅介護支援事業者や主治医との連携により確認し、記録することも算定要件の一部でした。
事業所としては、個別送迎を実施する際の体制や手順を明文化し、職員への周知徹底を図ることが必要でした。また、利用者の状態変化に応じて個別送迎の必要性を定期的に評価し、不要となった場合は速やかに通常の送迎体制に移行することも求められていました。
2021年度の介護報酬改定において、個別送迎体制強化加算は廃止されました。この決定には複数の背景要因がありました。
最も大きな理由の一つは、加算の算定実績の低さでした。厚生労働省の調査によると、療養通所介護事業所における個別送迎体制強化加算の算定率は期待されたほど高くなく、制度創設の目的が十分に達成されていない状況が明らかになりました。これは、算定要件の複雑さや事務負担の重さが影響していると分析されました。
また、算定要件の解釈をめぐる混乱や不適切な算定事例が散見されたことも廃止の一因となりました。個別送迎の必要性についての判断基準が曖昧な部分があり、事業所間での解釈のばらつきや、本来対象とならないケースでの算定が問題となっていました。
さらに、療養通所介護の基本報酬自体の見直しがおこなわれ、送迎に関する費用についても基本報酬に包括される形で整理されることとなりました。これにより、個別の加算として設ける必要性が低下したと判断されました。
制度運用上の観点からは、個別送迎の実施状況や効果についての評価・検証が困難であったことも指摘されました。加算創設の効果を測定し、政策目的の達成度を評価するための仕組みが不十分であったため、継続的な制度改善が難しい状況にありました。
個別送迎体制強化加算の廃止後も、療養通所介護における送迎の重要性は変わりません。むしろ、加算に依存しない安定した送迎体制の構築がより重要になっています。
現在の療養通所介護では、基本報酬に送迎費用が包括的に含まれているため、利用者の医療ニーズや身体状況に応じた送迎体制を確保することが事業所の責務となっています。これは、加算があった時代と変わらず、個別性の高い送迎サービスの提供が求められていることを意味します。
送迎体制の具体的な整備として、まず看護職員や介護職員の同乗体制を継続することが重要です。医療的ケアが必要な利用者の送迎においては、送迎中の状態変化に対応できる専門職の同乗が安全確保の観点から不可欠です。
また、送迎車両の設備面での配慮も継続しておこなう必要があります。車椅子対応車両、酸素ボンベ搭載可能な車両、医療機器の電源確保など、利用者の医療ニーズに対応した車両の整備が求められます。
送迎計画の策定においては、利用者の身体状況、医療処置の内容、家族の状況等を総合的に勘案し、送迎方法を決定する必要があります。また、主治医や居宅介護支援事業者との連携により、送迎に関する情報共有と調整をおこなうことが重要です。
記録管理についても、加算算定時と同様の丁寧さが求められます。送迎時の利用者の状態、実施した医療的ケア、送迎中の出来事等について詳細に記録し、サービスの質の向上と事故防止に活用することが大切です。さらに、職員研修の継続実施により、療養通所介護における送迎の特殊性と重要性について職員の理解を深め、技術と知識の習得を図ることも必要です。
療養通所介護における個別送迎体制強化加算は、2021年度の介護報酬改定により廃止されましたが、この制度変更の背景と影響を正確に理解することは、事業運営にとって重要な意味を持ちます。
加算廃止の背景には、算定実績の低さ、解釈の混乱、不適切な算定事例の発生など、複数の要因がありました。これらの問題は、加算の算定要件が複雑であったことや、事業所における制度理解が不十分であったことに起因する部分も大きく、介護報酬制度全般における課題を示唆しています。廃止後の現在においても、療養通所介護の利用者に対する個別性の高い送迎サービスの必要性は変わりません。むしろ、基本報酬に包括された中で、より効率的かつ効果的な送迎体制を構築することが求められています。
事業所としては、過去の加算算定における問題事例を教訓として、現在の制度においても送迎体制の整備と記録管理を継続することが重要です。また、介護報酬制度の理解不足による不適切な算定や返還事例を避けるためにも、制度変更の詳細について継続的に学習し、事業運営を心がけることが必要です。
療養通所介護の送迎は、利用者の生命と安全に直結する重要なサービスです。制度の変遷を踏まえつつ、常に利用者本位の質の高いサービス提供を目指していくことが、事業所の使命と言えるでしょう。