2024年度の介護報酬改定により、通所介護事業所においても高齢者虐待防止のための体制整備が義務化されました。これに伴い、虐待防止措置を講じていない事業所に対しては「高齢者虐待防止措置未実施減算」が適用されることになります。
この減算は、利用者の尊厳と権利を守るための重要な制度改正の一環として位置づけられており、すべての通所介護事業所が対応を求められています。対応を怠った場合、介護報酬の減算により事業運営に大きな影響を与える可能性があります。
本記事では、高齢者虐待防止措置未実施減算の具体的な内容と算定要件、そして通所介護事業所が今すぐ取り組むべき実践的な対応策について詳しく解説します。
高齢者虐待防止措置未実施減算は、2024年度介護報酬改定で新設された減算項目です。この減算は、高齢者虐待の防止等に関する法律に基づき、介護サービス事業所に虐待防止のための体制整備を義務付け、措置を講じていない事業所に対して介護報酬を減額する仕組みです。
減算の目的は、利用者の人権と尊厳を守り、安心・安全な介護サービスの提供体制を確保することにあります。従来、虐待防止に関する取り組みは各事業所の自主的な判断に委ねられていましたが、制度改正により法的義務として明確化されました。
この減算制度により、事業所は虐待防止委員会の設置、従業者への研修実施、担当者の配置など、包括的な虐待防止体制の構築が求められます。これらの措置を実施していない場合、所定単位数から一定割合が減算されることになります。
通所介護事業所における高齢者虐待防止措置未実施減算は、基本報酬から1日につき5単位が減算されます。この減算は、虐待防止のための措置が講じられていないと認められた月の翌月から適用され、改善が確認されるまで継続されます。
減算の対象となる具体的な要件は以下の通りです。まず、虐待防止委員会を3ヵ月に1回以上開催していない場合が該当します。委員会には、管理者、虐待防止担当者、その他必要な職員が参加し、虐待防止に関する方針や対応策について定期的に検討することが求められます。
次に、従業者に対する虐待防止研修を定期的に実施していない場合も減算対象となります。研修は年1回以上の実施が義務付けられており、新規採用者については採用後速やかに実施する必要があります。
さらに、虐待防止担当者を配置していない場合、または担当者が業務をおこなっていない場合も減算の対象となります。担当者は、虐待防止に関する知識と経験を有する職員から選任し、委員会の運営や研修の企画・実施、相談対応などの業務を担当します。
通所介護事業所が高齢者虐待防止措置未実施減算を回避し、虐待防止体制を構築するためには、以下の対応策を速やかに実施する必要があります。
まず、虐待防止委員会の設置と運営体制の確立が最優先課題です。委員会のメンバーを選定し、開催スケジュールを策定して、3ヵ月に1回以上の定期開催を確実に実行しましょう。委員会では、虐待防止に関する方針の策定、リスクアセスメントの実施、事案発生時の対応手順の確認などをおこないます。
次に、虐待防止担当者の選任と役割の明確化をおこないます。担当者には、虐待防止に関する十分な知識と経験を持つ職員を配置し、必要に応じて外部研修への参加を促進して専門性を高めることが重要です。
従業者への定期的な研修実施も欠かせません。年間研修計画を策定し、虐待の定義、早期発見のポイント、対応方法、報告体制などを含む包括的な研修プログラムを実施します。研修記録の作成と保管も忘れずにおこないましょう。
また、虐待防止に関する方針や手順書の整備、相談・通報体制の構築、職員間のコミュニケーション促進など、組織全体での取り組みを推進することが効果的です。
高齢者虐待防止措置未実施減算は、通所介護事業所にとって重要な制度改正の一つです。対応を怠ると介護報酬の減算を受けるだけでなく、利用者の安全と尊厳を守るという事業所の根本的な役割を果たすことができません。
虐待防止委員会の設置、担当者の配置、定期的な研修実施など、求められる措置を確実に実行し、継続的な改善に取り組むことが求められます。これらの取り組みは、減算回避のためだけでなく、質の高い介護サービスの提供と利用者の権利擁護のために不可欠な要素です。
今後も制度の動向に注意を払いながら、利用者一人ひとりの尊厳を大切にした介護サービスの提供に努めていくことが、通所介護事業所に求められる重要な責務といえるでしょう。