通所介護(デイサービス)では、多くの高齢者が日常的にサービスを利用するため、残念ながら事故が発生する可能性を完全に排除することはできません。しかし、事故の種類や発生パターンを理解し、適切な対応フローと予防策を講じることで、事故のリスクを大幅に軽減することは可能です。
本記事では、通所介護で発生しやすい事故の具体的な事例と、事故が発生した際の正しい対応手順について詳しく解説します。また、事業所が実施すべき事故防止対策や、利用者家族・ケアマネジャーへの適切な説明方法についても紹介します。
安全で安心なサービス提供を実現し、利用者とその家族から信頼される事業所運営のために、ぜひ参考にしてください。
目次
通所介護における事故は、主に人身傷害事故と物損事故に分類されます。介護労働安定センターの調査データによると、通所サービスで発生した人身傷害事故の内訳では「転倒・転落」が83.7%と大半を占めています。
転倒・転落事故は、介護施設内の事故で最も多く、全体の65.6%を占めています。具体的な発生場面として、歩行時のつまずき、車椅子からの立ち上がり時の転倒、トイレ移動時の転倒、入浴時の滑落などがあります。高齢者は筋力低下やバランス感覚の衰えにより、わずかな段差や濡れた床面でも転倒リスクが高まります。
「誤嚥・誤飲・むせこみ」事故は全体の13%を占める重要な事故類型です。食事中の誤嚥、薬の誤飲、食べ物以外の異物摂取などが該当します。認知症の方や嚥下機能が低下した利用者に多く見られ、最悪の場合は生命に関わる重篤な事故となる可能性があります。
送迎中の交通事故、利用者同士のトラブル、やけど事故、物品の紛失・破損なども発生します。これらの事故は頻度は低いものの、発生した場合の影響は大きく、適切な対応が求められます。
事故発生時の対応は、迅速性と正確性が重要です。以下の手順に従って対応をおこないましょう。
事故発生を確認したら、まず利用者の安全確保と応急処置を最優先におこないます。意識の確認、外傷の有無、呼吸・脈拍の確認をおこない、必要に応じて救急車の要請をおこないます。他の利用者の安全も同時に確保し、パニックを防ぐための冷静な対応が必要です。
事故の状況を詳細に記録します。発生時刻、場所、状況、関係者、応急処置内容などを正確に記載し、可能であれば現場の写真撮影もおこないます。管理者への報告を速やかにおこない、チーム全体で情報共有を図ります。
軽傷に見えても、高齢者の場合は後から症状が悪化する可能性があります。家族と相談の上、医療機関での診察を受けることを推奨し、必要に応じて付き添いをおこないます。診断結果は必ず記録し、今後の対応の参考とします。
サービス提供中に事故が発生した場合、事業者は保険者である市町村と、事業所の所在する市町村へ報告する必要があります。重大事故の場合は、所管の県への報告も必要となります。報告期限を守り、正確な情報を提供することが重要です。
事故の詳細、原因分析、再発防止策をまとめた事故報告書を作成します。客観的事実に基づいた記載を心がけ、感情的な表現は避けて、建設的な改善提案を含めることが大切です。
効果的な事故防止には、多角的なアプローチが必要です。以下の対策を組み合わせて実施しましょう。
施設内の安全性向上が基本となります。段差の解消、手すりの設置、滑り止めマットの配置、十分な照明の確保、通路の障害物除去などをおこないます。定期的な安全点検を実施し、危険箇所の早期発見・改善に努めることが重要です。
職員の介護技術向上と安全意識の醸成が不可欠です。移乗介助技術の習得、緊急時対応訓練、事故事例の共有・検討会の実施などを定期的におこないます。新人職員には特に重点的な指導をおこない、経験豊富な職員との組み合わせでサービス提供をおこないます。
利用者一人ひとりのリスクファクターを正確に把握し、職員間で情報共有を徹底します。身体機能、認知機能、既往歴、服薬情報、家族の意向などを詳細に記録し、個別の注意点を明確にします。情報の更新も定期的におこない、常に最新の状態を維持します。
事故に至らなかった「ヒヤリハット」事例を積極的に収集・分析し、予防策を講じます。職員が報告しやすい環境づくりをおこない、責任追及ではなく改善のための活動として位置づけることが重要です。月次でヒヤリハット事例を検討し、具体的な改善策を実施します。
事故発生時の家族・ケアマネジャーへの説明は、信頼関係維持のために極めて重要です。
事故発生後は可能な限り速やかに連絡をおこないます。隠蔽や先延ばしは信頼失墜につながるため、たとえ軽微な事故であっても必ず報告します。電話での第一報に続き、詳細な書面での報告をおこない、透明性を保った対応を心がけます。
感情的な表現や推測を避け、客観的事実のみを正確に伝えます。「いつ、どこで、何が、どのように起こったか」を時系列で整理し、分かりやすく説明します。原因が明確でない場合は、推測ではなく「調査中」として正直に伝えることが大切です。
事故の報告だけでなく、再発防止に向けた具体的な取り組みを提示します。環境改善、職員教育、個別対応の見直しなど、実効性のある対策を示すことで、家族・ケアマネジャーの理解と協力を得ることができます。
事故後の利用者の状況を定期的に報告し、継続的なフォローアップをおこないます。医療機関での診察結果、日常生活への影響、サービス提供時の配慮事項などを共有し、チーム一体となった支援体制を構築します。
通所介護における事故は、利用者の身体機能低下や認知機能の変化などにより、完全にゼロにすることは現実的に困難です。しかし、適切な予防策と対応体制を整備することで、事故のリスクを大幅に軽減し、万が一事故が発生した場合でも適切に対応することは可能です。
重要なのは、事故を隠蔽したり責任転嫁したりするのではなく、真摯に向き合い、継続的な改善に取り組むことです。職員一人ひとりが安全意識を持ち、組織全体で事故防止に取り組む文化を築くことが、利用者と家族から信頼される事業所運営につながります。
事故防止は一朝一夕に達成できるものではありませんが、日々の積み重ねによって必ず成果が現れます。利用者の安全と安心を第一に考え、質の高い通所介護サービスの提供を目指していきましょう。