デイサービス事業を運営している事業者の方にとって、安定した稼働率の維持は経営の根幹を支える重要な要素です。稼働率の向上は売上アップに直結するため、経営を黒字化し、利用者により良いサービスを提供するための必須条件と言えるでしょう。
しかし、多くの事業者の方が「稼働率の計算方法がわからない」「全国平均と比べてどうなのか」「具体的にどのような取り組みをすれば稼働率を向上させられるのか」といった課題を抱えています。
本記事では、デイサービスの稼働率の基本的な概念から計算方法、全国平均データ、そして実際の稼働率向上に向けた具体的な取り組みまでを詳しく解説します。デイサービス経営の安定化を図りたい方に、実践的な情報をお届けします。
目次
デイサービスの稼働率とは、事業所が受け入れ可能な最大人数に対し、実際にどの程度の割合で利用されているかを示す数値です。これは事業所の経営状況を把握するための重要な指標であり、売上や収益性に直接的な影響を与えます。
稼働率の数値が高ければ高いほど、事業所の定員枠を効率的に活用できていることを意味し、経営の安定性を示しています。反対に稼働率が低い場合は、定員枠に対して利用者が少ない状況であり、売上機会の損失や経営状況の悪化につながる可能性があります。
デイサービス事業において、稼働率は単なる数値ではなく、経営戦略を立てる上での重要な判断材料となります。稼働率を維持することで、スタッフの雇用安定、サービス品質の向上、事業の持続可能性を確保することができるのです。
デイサービスの稼働率は、以下の計算式を用いて算出することができます。
【月単位での稼働率計算式】
稼働率 = 1ヵ月の延べ利用者数 ÷(営業日数 × 1日の利用定員)× 100
【1日単位での稼働率計算式】
稼働率 = 1日の利用者数 ÷ 1日の利用定員 × 100
具体的な計算例を見てみましょう。
例1:月単位の計算
- 1ヵ月の営業日数:24日
- 1日の定員:30名
- 1ヵ月の延べ利用者数:600名
稼働率 = 600人 ÷(24日 × 30人)= 600 ÷ 720 = 83.3%
例2:1日単位の計算
- 1日の利用定員数:40名
- 実際の利用者数:30名
稼働率 = 30名 ÷ 40名 = 75%
このように計算することで、事業所の稼働状況を数値で把握できます。月単位の計算では長期的な傾向を、日単位の計算では日々の稼働状況を把握することが可能です。これらの数値を定期的に算出し、推移を追跡することで、経営改善のための具体的な対策を立てることができます。
福祉医療機構が実施した調査によると、デイサービスの稼働率は事業所の規模によって異なる傾向があります。
【規模別の稼働率全国平均】
全体的に7割以上を超えていますが、通常規模型のみ68.4%という低い数値です。この理由として、通常規模型は他施設と併設していることが多いからではないか、と分析されています。
経営の安定性を考慮すると、通常規模型であれば「70%」以上が必要とされており、経営を安定させるには、通常規模型であれば稼働率70%以上が目安となります。
これらのデータから、全国平均は約7割程度と考えられ、自事業所の稼働率がこの水準を下回っている場合は、早急な改善策の検討が必要です。逆に全国平均を上回っている場合でも、さらなる向上を目指すことで、より安定した経営基盤を築くことができるでしょう。
新規利用者の獲得は稼働率向上の基本となる取り組みです。最も重要なのは、ケアマネジャーとの信頼関係構築です。定期的な営業訪問をおこない、事業所の特色やサービス内容を丁寧に説明することが大切です。
地域包括支援センターとの連携も欠かせません。地域のニーズを把握し、どのようなサービスが求められているかを常に情報収集しましょう。また、医療機関との連携により、退院後の利用者を受け入れる体制を整えることも効果的です。
口コミによる紹介も重要な獲得ルートです。現在の利用者やその家族からの紹介を促進するため、満足度の高いサービス提供を心がけ、定期的にアンケートを実施して改善点を把握することが重要です。
地域イベントへの参加や見学会の開催により、事業所の認知度向上を図ることも有効です。地域住民に向けた健康教室や介護予防講座を開催することで、潜在的な利用者との接点を作ることができます。
既存利用者の利用頻度を向上させることは、新規獲得と同様に重要な取り組みです。まず、利用者一人ひとりのニーズに合わせた個別ケアプランの充実を図りましょう。利用者の身体状況や趣味嗜好を詳しく把握し、参加したくなるプログラムを提供することが大切です。
魅力的なレクリエーションプログラムの企画・実施により、利用者の満足度を高めることができます。季節に応じたイベントや、利用者の特技を活かした活動などを取り入れることで、「また参加したい」と思ってもらえるような環境づくりを心がけましょう。
機能訓練や口腔機能向上などの専門的なサービスを充実させることで、利用者の健康維持・改善につながり、継続利用のモチベーション向上につながります。効果が実感できるサービスを提供することで、利用頻度の増加が期待できます。
家族との情報共有も重要です。利用者の状況や成果を定期的に報告し、家族にもデイサービス利用の効果を実感してもらうことで、利用継続の理解と協力を得ることができます。
稼働率が安定しない場合は、まず欠席の要因分析をおこなうことが重要です。体調不良、家族の都合、サービスへの不満など、欠席理由を詳しく把握し、それぞれに応じた対策を講じましょう。
キャンセル待ちリストの活用により、急な欠席に対応できる体制を整えることが効果的です。複数の利用希望者をリスト化し、欠席が発生した際に迅速に連絡できるシステムを構築しましょう。
利用者の体調管理支援も重要な対策の一つです。日頃から利用者の健康状態に注意を払い、体調不良による欠席を予防するための取り組みをおこないましょう。必要に応じて看護師による健康チェックを実施することも有効です。
送迎サービスの充実により、利用者の通所負担を軽減することで、継続利用を促進できます。送迎ルートの最適化や、利用者の身体状況に応じた車両の選択など、きめ細かな配慮をおこないましょう。
稼働率向上を目指す際は、サービスの質を維持することが最も重要です。利用者数を増やすあまり、一人ひとりへの対応が疎かになってしまっては本末転倒です。人員配置をおこない、質の高いサービスを継続的に提供できる体制を整えましょう。
スタッフの負担増加にも注意が必要です。稼働率向上によりスタッフの業務量が増加する場合は、人員補強や業務効率化を図ることで、スタッフの疲弊を防ぎましょう。職員の働きやすい環境づくりは、結果的にサービス品質の向上にもつながります。
利用者の安全性確保も欠かせません。定員いっぱいの受け入れをおこなう場合でも、緊急時の対応や感染症対策などの安全管理を徹底し、利用者が安心してサービスを利用できる環境を維持することが重要です。
また、稼働率だけでなく、加算の算定による収益性向上も合わせて検討しましょう。個別機能訓練加算や口腔機能向上加算など、加算を算定することで、稼働率以外の収益向上策も実施できます。
デイサービスの稼働率は、事業所の経営安定性を測る重要な指標です。計算方法は「延べ利用者数 ÷(営業日数 × 定員)」で求めることができ、全国平均は約7割程度となっています。通常規模型の事業所では、70%以上の稼働率維持が経営安定の目安とされています。
稼働率向上のためには、新規利用者の獲得と既存利用者の利用頻度向上の両方に取り組むことが重要です。ケアマネジャーとの連携強化、魅力的なプログラムの企画、欠席対策の実施など、多角的なアプローチが必要です。
ただし、稼働率向上を目指す際は、サービスの質を維持し、スタッフの負担増加に配慮することが大切です。利用者一人ひとりに寄り添った質の高いサービスを提供することで、結果的に稼働率の安定的な向上につながるでしょう。
定期的に稼働率を算出し、推移を把握することで、経営判断をおこない、持続可能なデイサービス運営を実現していきましょう。