デイサービス運営において、日々のサービス実施記録は単なる「記録作業」ではありません。運営指導での重要な証拠書類となり、介護報酬請求の根拠となる極めて重要な文書です。しかし、多くの事業所で「何を書けばいいかわからない」「記録に時間がかかりすぎる」「運営指導で指摘を受けた」といった悩みを抱えているのが現状です。
本記事では、サービス実施記録の基本的な書き方から、運営指導で指摘されないためのポイント、そして記録業務を効率化するアセスメントとの連動方法まで、デイサービス現場で実践できる具体的なノウハウを詳しく解説します。
目次
サービス実施記録には以下の基本項目が必要です。
利用者名・利用年月日
記録の特定に必要な基本情報です。提供サービス内容では、食事、入浴、レクリエーション、機能訓練など、具体的に提供したサービスを記載します。実施者名は誰がサービスを提供したかを明確にし、責任の所在を明らかにします。
サービス提供時間
開始時刻と終了時刻を正確に記録し、特記事項では利用者の反応、状態変化、特別な配慮内容を具体的に記載します。
事実と所見を明確に分けることが重要です。「利用者が笑顔で参加していた」(事実)と「楽しそうに見えた」(所見)を区別して記載します。
抽象表現を避け具体的に記述することで、第三者が読んでも状況が理解できる記録となります。「元気だった」ではなく「大きな声で挨拶し、自分から他の利用者に話しかけていた」と具体的に記載します。
加算要件との整合性を常に意識し、算定している加算に関連するサービス内容は特に詳細に記録します。個別機能訓練加算を算定している場合、訓練内容、時間、利用者の反応を詳しく記載する必要があります。
「特になし」「普通に過ごす」「いつも通り」などの曖昧な表現は、運営指導で適切なアセスメントに基づくサービス提供がなされていないと判断される可能性があります。必ず具体的な行動や状況を記載しましょう。
適切な記録例
「昼食時、声かけにより食堂へ移動。箸での摂取困難な場面でスプーンを提案し、本人が選択。全量摂取完了。水分は茶200ml摂取。むせることなく安全に摂取できた。」
不適切な例
「昼食介助実施。問題なし。」
食事介助では、介助の具体的内容、摂取量、安全面での配慮、利用者の選択や反応を記載することが重要です。
適切な記録例
「個浴にて入浴介助実施。脱衣時、左肩の可動域制限に配慮し、衣類の脱着を一部介助。湯船への移乗は手すりを使用し見守りで自立。入浴中、リラックスした表情で『気持ちいい』との発言あり。皮膚状態に異常なし。」
入浴介助では、介助レベル、安全配慮、利用者の反応、皮膚状態の観察結果を詳細に記載します。
適切な記録例
「午後のレク活動『季節の歌を歌おう』に参加。『青い山脈』を歌詞カードを見ながら参加。途中から暗記で歌い、他の利用者との会話も増加。活動後『懐かしい歌だった』と笑顔で感想を述べる。」
レクリエーションでは、参加状況、他の利用者との交流、活動に対する反応や効果を具体的に記載します。
適切な記録例
「14:30頃、トイレに行きたいという訴えがあり。トイレまで歩行にて誘導。排泄後、手洗いまで一連の動作を自立体で実施。使用済みタオルの片付けを声かけで促し、自分で実施できた。」
排泄支援では、利用者の訴えや表情、介助内容、自立度の評価を記載します。
利用者の反応を具体的に記録する際は、表情、言葉、行動を客観的に記載します。「ありがとう」と笑顔で感謝の言葉を述べる「眉間にしわを寄せ、疲れたとの発言」など。状態変化の記録では、普段との違いを明確に記載します。
「普段は自発的な発言が少ないが、本日は他の利用者に積極的に話しかける場面が複数回見られた」のように行動の背景や配慮内容も記載することで、個別性のあるケアを提供していることを示せます。
アセスメント内容とサービス提供記録が一致していない場合、運営指導で重大な指摘を受ける可能性があります。
例えば、アセスメントで「社会参加への意欲向上」が課題として挙げられているにも関わらず、実施記録には機能訓練の記録しかなく、他の利用者との交流やレクリエーション参加に関する記録がない場合、「アセスメントに基づかないサービス提供」として指摘されます。
また、通所介護計画書で設定した長期目標・短期目標に対する支援内容が記録に反映されていない場合、「計画に基づかないサービス提供」として介護報酬の返還を求められる可能性があります。
利用者のニーズ・目標に沿った支援が記録に反映されているかという観点が運営指導では重要視されます。
アセスメントで「歩行能力の維持・向上」がニーズとして特定されている場合、日々の記録にも歩行訓練の実施状況、歩行距離、使用した補助具、利用者の反応などが詳細に記録されている必要があります。
逆に、アセスメントで重要とされていない内容ばかりが記録されている場合、「適切なアセスメントに基づいていない」と判断される可能性があります。
多くの事業所で「記録が書きづらい」「何を書けばいいかわからない」という悩みを抱えていますが、その根本原因はアセスメントが曖昧であることにあります。
利用者の生活課題、支援目標、具体的なニーズが明確でないと、日々のサービス提供時に「何を観察し、何を記録すべきか」が分からなくなります。結果として、「特になし」「普通に過ごす」といった曖昧な記録になってしまいます。
利用者ごとの生活課題・目標・ニーズが整理されたアセスメントがあることで、記録すべきポイントが明確になります。
例えば、「ADL向上」という曖昧な目標ではなく、「トイレでの立ち上がりを手すりを使用して自立で行えるようになる」という具体的な目標があれば、トイレ誘導時の立ち上がり動作、手すりの使用状況、介助の必要度を重点的に観察・記録できます。
アセスメントで特定された課題に対する支援内容と効果を記録することで、自然と運営指導で求められる「根拠のある記録」が作成できます。
明確なアセスメントがあることで、どの職員が記録を書いても一定の品質を保つことができます。新人職員でも、アセスメント内容を参照することで、何を観察し、何を記録すべきかが理解できます。
また、記録のポイントが明確になることで記録作成時間の短縮にもつながり、職員の負担軽減と業務効率化が同時に実現できます。
サービス実施記録は確かに「日々の積み重ね」ですが、その基盤となる「軸になるアセスメント」が曖昧だと、記録内容もブレやすくなります。結果として、運営指導での指摘リスクが高まり、記録作成にも無駄な時間がかかってしまいます。
サービスの質と加算要件への対応力を高めるためにも、まずは記録の基礎となるアセスメントの型を整えることから始めましょう。適切なアセスメントに基づく記録は、利用者により良いサービスを提供するための道具であり、同時に事業所を守る重要な証拠書類でもあります。
記録業務の効率化と品質向上を同時に実現し、職員が本来の介護業務に集中できる環境を作ることが、持続可能なデイサービス運営の鍵となります。