介護認定を受け、家族の介助や見守りがないと生活ができなくなった方は、自宅にこもりきりになってしまうことが多いです。
在宅生活を継続しながら介護サービスを受けられるものとして通所介護があります。しかし、医療的なケアが必要な方の利用は難しい事業所が多いようです。そのような方でも利用できる通所介護サービスが、療養通所介護です。
今回は、療養通所介護の概要やサービス内容について解説したのち、療養通所介護サービスで算定できる加算について紹介します。
目次
療養通所介護とデイサービスの違いは、医療的ケアや看護師の見守りが必要な方がサービスを受けられるかどうかです。
以下の表に療養通所介護とデイサービスの違いをまとめました。
療養通所介護 | デイサービス | |
目的 | 医療ケアが必要中田、重度の要介護者に医療的サービスを提供 | 高齢者の生活支援や機能の維持・改善、社会的交流 |
サービス内容 | 医師や看護師による健康管理 | 日常生活支援(食事介助、入浴介助) |
施設規模 | 比較的小規模で専門性が高い | 比較的大規模で多様な活動を提供 |
対象者 | 主に医療的支援が必要な要介護度の高い人 | 要支援者から比較的軽度の要介護者まで幅広く対応 |
デイサービスは生活支援や交流を重視したサービスと言えます。
療養通所介護は看護師などの医療従事者が常駐しており、難病や認知症、末期がんなどを患う利用者が医療的なケアに特化したサービスを受けることができるのが違いです。
療養通所介護の対象は、要介護1〜5の認定を受けた方の中でも常時看護師による観察が必要な難病、認知症、脳血管疾患後遺症等を有する重度者またはガン末期の利用者とされています。
厚生労働省によると、令和3年度の療養通所介護の要介護度別利用者数は、要介護3以上の利用者が89.4%になってなっており、要介護度の高い利用者が多いことがわかります。また、地域密着型サービスであるため、その事業所がある市区町村に住んでいる方が対象となります。
療養通所介護事業所では、利用者の体調変化等に応じて適切な医療サービスを提供します。人工呼吸器の管理や痰の吸引、点滴による栄養補給など、専門的な医療処置をおこないます。そのため、利用者の主治医や訪問看護サービスを利用している際には担当事業所とも密接な連携を図り、利用者の状況を把握していく必要があります。
利用者それぞれの嚥下機能の状態に合わせてとろみ食、ミキサー食を提供するなど安全な食事介助をおこないます。
療養通所介護において利用者に提供しているケアのうち、入浴介助が最も多く86.6%にのぼります。安心安全に入浴できるように、専用の設備を用いて複数の職員で入浴介助をおこないます。医療機器を使用している利用者も入浴できます。
定期的なバイタルチェックや体温測定、顔色や表情も観察して、利用者の健康状態の変化に細やかに対応します。また、サービス担当者会議等を通じて、利用者の心身の状況やおかれている環境、その他の保健医療サービス、福祉サービスの利用状況等を把握していく必要があります。
身体機能維持を目的とした付き添いや見守りをおこなったり、運動機能を保つために必要に応じて理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションを取り入れます。サービス提供状況を見ると、利用者のうち57.8%が四肢の自動運動及び関節可動域維持のリハビリテーションをおこなっており、運動機能の維持が利用者にとって重要な課題と言えます。
送迎時に看護師が必ず同乗し、医療機器を身につけたまま安全に移動できるように介助します。緊急時の対応手順を決め、万が一の事態にも備えます。
参考:厚生労働省 「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」
参考:厚生労働省「療養通所介護」
療養通所介護事業所をにおいてサービスを提供する際には、厚生労働省によって定められた人員基準を満たしている必要があります。
以下の表にまとめましたのでご覧ください。
項目 | 内容 |
管理者 | 専らその職務に従事する常勤看護師 |
看護職員・介護職員数 | (1)提供時間帯を通じて、その利用者数1.5人につき専ら療養通所介護サービスの提供者が1人以上 |
利用定員 | 18人以下 |
事業所 | 専用の部屋のほか、消火設備、その他非常災害に際して必要な設備、その他サービス提供に必要な設備および備品等 |
専用の部屋 | (1)利用者1人につき6.4㎡以上 |
サービス提供の全時間帯で、利用者1.5名に対して常時1名以上の看護職員または看護師を配置することで、利用者1人ひとりに目が届きやすくなり、より手厚く日常生活のサポートや医療的なケアをおこなうことができるでしょう。
また、管理者は常勤看護師とされていますが、管理業務に支障がない場合は、療養通所気合後のほかの職に従事したり、同一敷地内にある他の事業所職務に従事することも可能です。
療養通所介護において利用者の自立支援や生活の質向上のためにおこなうサービスには、それぞれ取得できる加算があります。どのような加算を算定できるのかを簡単にご紹介します。具体的な条件や算定要件については、法令やガイドラインをご確認ください。
介護福祉士の配置を特に強化して基準を満たし届出をおこなっている事業所が算定できる加算のことです。職員の介護福祉士の割合、介護福祉士の勤続年数などの要件を満たし、利用者の定員を超えていない事業所に適用されます。
機能訓練指導員が利用者のニーズを把握して個別の機能訓練計画を策定・実施する場合に算定することができます。また、定期的に計画を見直して評価をおこなうことも必要です。専従の機能訓練指導員がいること、複数名の指導員がいる、科学的介護情報システム(LIFE)を活用しているなど、種類によって要件が異なります。
利用者が入浴する際に必要な介助を提供した場合に算定される加算です。利用者の入浴時の観察や介助を含む支援が含まれます。以下の2種類の加算があります。
利用者の自立を促進するための見守りや声掛け、必要に応じた介助をおこなう場合に算定できます。職員に対して入浴介助に関する研修を実施する必要があります。
(Ⅰ)の条件に加えて、利用者宅の浴室環境を評価し個別の入浴計画を作る必要があります。
参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
利用者の健康状態を向上させるために、低栄養状態またはそのリスクがある利用者に対して、栄養状態の改善や心身機能の維持・向上を図る取り組みを評価する加算です。管理栄養士が利用者の栄養状態を評価し、個別ニーズに応じた栄養ケア計画を作成して食事の改善をおこなうことで算定されます。計画は利用者の状況によって随時見直しが必要です。
利用者の口腔機能の低下を防ぎ、改善を図るための取り組みを評価する加算です。嚥下や咀嚼の力、唾液分泌、口腔清潔などの機能を向上させることを目的としています。言語聴覚士、歯科衛生士、看護職員らで作成した口腔機能改善管理指導計画をもとに口腔機能向上サービスをおこなった場合に算定することができます。計画は利用者の状況によって随時見直しが必要です。
参考:厚生労働省「介護保険最新情報 リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の実施及び一体的取り組みについて」
療養通所介護は、医療行為が必要な利用者が対象であるため、比較的要介護度の考え方が多いです。サービスを利用しやすくするために、送迎をおこなっている事業所も多いです。利用者の居宅と事業所間の送迎をおこなった場合には送迎加算を算定することができます。1回の送迎の利用人数、送迎の実施回数などによって評価されます。
一般的な通所介護では、医療的なケアが必要な方は利用できないことが多いですが、療養通所介護は医療的なケアが必要な方でも介護サービスを受けられることが大きな特徴です。
職員も多く配置され、心身機能の維持に関するサポートを受けられることや、ほかの利用者やスタッフとの交流を通じて生活の質の向上につながります。療養通所介護を導入することで、算定できる加算も多いため事業所にとっても収益アップが期待できるでしょう。