令和7年度補正予算の成立により、「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」の詳細が見えてきました。現場からは「本当に給料は上がるの?」「うちはケアマネ事業所だけど対象?」という期待と不安の声が聞こえてきます。
今回の事業の核心は、令和8年度の本格的な介護報酬改定を待たずに行われる「緊急的対応」であるという点です。物価高騰や他産業への人材流出を食い止めるための「つなぎ」の施策であり、それゆえに従来の処遇改善加算とは全く異なる、異例のルールが数多く盛り込まれています。コンサルタントの視点から、経営・現場双方が今すぐ押さえるべき急所を解説します。
この事業は、令和8年度の報酬改定を待たずに実施される「緊急的対応」です。
・対象期間:令和7年12月〜令和8年5月までの6ヶ月分
・支給方法:毎月払いではなく、6ヶ月分を一括で交付
・使途:職員の賃金改善(基本給、手当、賞与等)が基本ですが、職場環境改善(研修費や採用経費)にも充てられます。
補助金の支払われ方には注意が必要です。毎月の介護報酬に上乗せされるのではなく、令和7年12月から翌年8年5月までの6か月分が「一括」で事業所に振り込まれます。
ここで経営者が注意すべきは、12月分から毎月補助金が振り込まれるわけではない点に注意が必要です。
12月から職員の給与を引き上げる計画を立てた場合、実際に都道府県から補助金が着金するまでにはタイムラグがあります。つまり、「国からお金が届く前に、事業所が賃上げ分を先に立て替えて支払う」状態になるのです。毎月の給与で改善を図るとした場合は、手元のキャッシュフローに余裕があるか、事前の確認が不可欠です。
※なお、基準月となる12月の報酬が感染症や大規模改修で著しく低い場合は、令和8年3月までの別の月を基準として選択できる柔軟な特例も設けられていますので、過度な不安は不要です。
一般の介護サービスが取組内容に応じて報酬を積み上げる「3階建て構造」をとるのに対し、居宅介護支援(および介護予防支援)は「15.0%」という単一の交付率が設定されました。
・他サービス:取組内容(賃上げ・協働化・職場環境)により交付率が変動
・居宅介護支援:要件を満たせば一律で15.0%(全額が賃金改善経費分)
特筆すべきは、居宅の場合、交付された15.0%の全額を賃金改善(給与アップ)に充てることが基本とされている点です。複雑な階層計算を必要とせず、要件さえ満たせばストレートに職員の還元に繋げられる、シンプルかつ強力な支援となっています。
補助金を受け取るためには、以下のどちらか一つのルートを選択する必要があります。
・「ケアプランデータ連携システム」への加入
(カナミック、富士通、でん伝虫など)・または、法人が「社会福祉連携推進法人」に所属していること
・任用要件・賃金体系の整備と周知
・資質向上のための研修計画と実施
・職場環境等要件の充足
(5区分全てで1つ以上、かつ生産性向上区分で2つ以上の取組)
「手続きのシンプルさでは生産性向上ルートが圧倒的に有利」という点に尽きます。煩雑な書類整備に時間を取られるより、ICT活用を名目にシステム導入を進めるほうが、長期的な業務効率化にも寄与するでしょう。
「介護職員の賃上げ」という名称ですが、実際には現場を支えるチーム全員が対象になり得ます。
厚生労働省のQ&A(第1版)問11では、対象範囲の広さが明示されています。
対象職種例:ケアマネジャー、相談員、看護職、リハビリ職、さらには事務職員や調理員、条件を満たせば法人本部の職員まで含まれます。
介護現場では、特定の職種だけが給与アップすることによる「不公平感」がチームワークを乱す原因になりがちです。今回の補助金は事務職や調理員も柔軟に対象に含められるため、「チーム全体でのベースアップ」が可能です。これは、事業所内の風通しを良くし、組織の一体感を高める絶好のチャンスと言えます。
交付された補助金の一部を「職場環境改善」に充てる場合のルールには注意が必要です。
できないことの例:パソコン、タブレット、介護テクノロジー機器の購入費用
できることの例:介護助手の募集経費(広告・紹介手数料)、研修費、専門家派遣費用(職場環境改善のためのコンサル等)
Q&A第1版問16・17にある通り、ハードの購入は認められません。しかし、生産性向上のための外部コンサルタントへの委託費や会議費は対象となります。
また、経営者にとって重要なのは、賃金改善に伴う「法定福利費(社会保険料の事業主負担増分)」も補助金から支出可能である点です。これを含めて計算しないと、せっかくの補助金が社会保険料の増加分で相殺されてしまうため、緻密な計算が求められます。結局のところ、全額を賃金改善と法定福利費に充てることが、事務的にも最も確実な選択肢と言えるでしょう。
本事業は各都道府県が主体となるため、自治体ごとにスケジュールが異なります。申請は「計画書」「実施」「実績報告」の3ステップですが、特に最後の「実績報告」に向けた証拠資料の準備を今から始めてください。
・ケアプランデータ連携システムの加入を検討する。
※令和7年度のうちは加入を誓約することで足ります。・賃金台帳や就業規則、研修計画などの整備。
・管轄の自治体ホームページを確認する。
本日現在、様々な自治体のホームぺージで申請にあたっての案内が続々と出てきています。
申請のタイミングは多くの自治体で2回設けられていますが、その日付もバラバラです。
すでに期日が迫っている状況ですので、ホームページを確認した上で対応を急ぎましょう。