「特定薬剤管理指導加算2」は2020年の調剤報酬改定で新設されました。
一定の要件のもとで患者を指導・情報提供をすれば、定められた点数を報酬に加算できます。
ただし、どんな医薬品にも適用されるわけではありません。特定の処方箋が対象で患者も限定され、施設基準も細かく指定されています。
厚生労働省の設定した要件に従い実施する必要があります。
今回は特定薬剤管理指導2の特徴、対象患者や指導の要件、施設基準等について解説します。
目次
がん患者への質の高い医療提供の評価として2020年に新設された加算です。要件に合致した指導を行えば、月1回まで100点の加算が可能です。
この加算方法の新設には、保険薬局の保険薬剤師へがん患者が相談しやすい環境を整え、有益な指導を促進するという狙いがあります。
がん患者の中には化学療法の副作用が強く出て、治療の継続に支障が出てしまう事態も想定されます。
そのため、がん患者の症状によって投与量を抑制する対応、副作用を緩和する制吐剤(嘔吐が続き脱水を起こさないための薬)等も使用し、柔軟な治療の継続が大切です。
柔軟な治療の継続には、医療従事者が患者の質問や要望をしっかりヒアリングし、適切な指導を行う必要があります。
対象となるのはがん患者の中でも、次のような治療を施されている患者です。
・連携充実加算を届け出た保険医療機関で抗悪性腫瘍剤を注射した
・レジメン(治療内容)等を文書で交付されている
・抗悪性腫瘍剤・制吐剤等の薬剤の調剤を受ける
連携充実加算とはレジメンを提供し、患者の状態を踏まえた指導の実施、それに加え地域の薬局薬剤師を対象とした研修会等も行い、連携体制を整備した場合の評価です。
特定薬剤管理指導加算2は化学療法(抗悪性腫瘍剤)が加算対象です。
一方、特定薬剤管理指導加算1は特に安全管理が必要な医薬品を対象とします。下表で比較してみましょう。
比較/特定薬剤管理指導 | 加算1(12種類) | 加算2 |
対象医薬品 | ・カリウム製剤(注射薬限定) |
|
点数 | 10点/回 ※処方箋の受付1回につき1回限定 | 100点/月1回 |
特定薬剤管理指導加算2の算定対象となる薬局は、抗悪性腫瘍剤等を調剤する保険薬局に限定されます。
更に患者へレジメン(治療内容)を交付した保険医療機関の処方箋に従い、保険薬剤師が抗悪性腫瘍剤や制吐剤等の支持療法にかかわる薬剤を調剤しなければいけません。
抗悪性腫瘍剤等を調剤する保険薬局でも、やはり対象外の薬剤を患者に調剤する場合は、当該加算の対象外となってしまいます。
保険薬剤師による患者への指導内容も、細やかな要件が設定されています。
交付されたレジメンを確認したうえで、患者に服薬の指導を行います。
このレジメンで患者にわかりやすい説明を行い、医薬品の効果や副作用等を理解してもらいます。
レジメンは抗悪性腫瘍剤をはじめとした支持療法について、時系列で明示した治療計画の書類です。
このレジメンを患者が薬局に持参していなくても、薬剤師はレジメンを交付した医療機関のホームページで確認可能です。
服薬指導を行い服用中にも、患者の状況確認や副作用が出ているかどうかも確認しなければいけません。
服薬指導後は患者・その家族に、電話やビデオ通話で主に次のような確認をとります。
・患者に抗悪性腫瘍剤・制吐剤等を服用して気分が悪くならないか
・嘔吐や皮膚の発疹等の副作用は出ていないか
・家族から見て患者本人の異常等は見受けられないか
服用中に異常が出ている場合、しっかりとその状況を記録し、その後の薬剤の投与量の調整等に活かしていきます。
なおビデオ通話の方法ならば、通話相手が患者本人とすぐにわかるので安心です。
しかし、高齢者の場合はビデオ通話を苦手としている人もいるので、通話については患者側から事前の同意を得ておきましょう。
レジメンを交付した保険医療機関に、患者の服用中の状況を報告します。
その場合、文書での情報提供が必要です。文書の写しの添付と内容の要点を薬歴に残し、主治医へフィードバックします。主治医は内容をチェックし、以後の診療に役立てます。
レジメンに従った薬学的管理や患者への指導、服用中のヒアリング、正確な保険医療機関への報告はもちろん、次のような配慮も要求されます。
まず、患者の緊急時に対応できるような方法を保険医療機関と話しあっておきましょう。
薬剤が患者の身体に合わず、強い副作用や発作がおこる事態も想定されます。
その際の緊急時の対応方法、連絡先等について情報の共有が大切です。
また、患者に強い副作用の発現リスクがある場合、患者に対して異常な事態が起きたら保険医療機関へ連絡するよう指導したり、受診勧奨を行ったりする等、適切な対応について説明しておく必要があります。
施設に関しても様々な要件が設定されています。
調剤をする保険薬局に勤務する保険薬剤師の内、勤務経験5年以上を有する薬剤師がいなければいけません。
ただし、医療機関の薬剤師として勤務経験が1年以上あるならば、1年を上限として勤務経験にカウントできます。
患者のプライバシーに配慮された施設でなければいけません。
がんに関しての相談は、患者・家族にとって深刻な問題です。他人に聞こえては困る事情もあるはずです。
具体的には、患者の姿を見えないようにしたり、保険薬剤師との会話のやりとりを他の方々へ聞こえないようにしたりするため、個室やパーテーション等で区切られた独立したカウンターを設ける必要があります。
調剤を行う保険薬局が、麻薬小売業者の免許(麻薬及び向精神薬取締法第3条)を取得していなければいけません。
もちろん、免許があるだけで良いのではなく、患者・家族に必要な指導を行える体制も整備されている必要があります。
抗悪性腫瘍剤の化学療法に係る研修会へ、保険薬局に勤務する薬剤師のうち少なくとも1
名が年1回以上参加する必要があります。
この研修会を開催しているのは保険医療機関です。
研修会の参加は必須要件ですが、それだけではなく保険機関と保険薬局のつながりも得やすくなります。
医療機関・薬局がいっそう緊密に連携し、患者の薬物治療に取り組む良い機会といえるでしょう。
こちらでは、特定薬剤管理指導2を適用する場合の様々な質問に回答します。
患者に対し、特定薬剤管理指導加算2の対象である抗悪性腫瘍剤、制吐剤の支持療法で用いる薬剤以外に、特定薬剤管理指導加算1に該当する薬学的管理を行っている場合、併用も可能です。
服用状況の確認は、患者とリアルタイムで音声通話ができる方法により行わなければいけません。つまり、患者が同意のうえで電話やビデオ通話で行う方法が該当します。
メールやチャットでのやりとりは、アルタイムで音声通話をしているといえず、算定の対象外となります。
当該加算は調剤業務を行っている薬局が要件となります。調剤を行わない薬局は算定の対象外です。
保険薬局が保険医療機関に情報を提供した後、患者が次に処方箋を持参すれば算定されます。なお、次に持参する処方箋はどんな保険医療機関のものであっても対象となります。
特定薬剤管理指導加算2の算定時、保険医療機関への文書で行う情報提供の場合、服薬情報等提供料の算定はできません。
ただし、抗悪性腫瘍剤等に関して患者の服用状況・副作用の有無等の確認を行う際、他の保険医療機関や他の診療科で処方された薬剤に係る情報を得られるケースもあります。
この場合は必要に応じ患者の同意を得て、その保険医療機関等に情報提供し、所定の要件を満たせば服薬情報等提供料を算定できます。
特定薬剤管理指導加算2の算定では、いろいろな要件をクリアしなければいけません。
しかし、これらの要件を満たしていけば、がん患者・家族への指導環境がいっそう整備され、患者の薬物治療サポートも充実するはずです。