要介護者の状態によっては介護サービス費用が増大することもあります。増大した介護費用を軽減するために利用できる制度が高額介護サービス費です。高額介護サービス費は、介護費用の負担を軽減できるメリットがある一方で、注意すべきこともあります。
この記事では、高額介護サービス費についてわかりやすく解説します。この記事を読むことで、高額介護サービス費を利用する際の注意点が理解できます。
目次
高額介護サービス費は、介護保険サービスを利用する際に、1ヶ月ごとの自己負担額が一定の上限額を超えた場合に適用される制度です。高額介護サービス費では、個人の所得や世帯の所得に応じて自己負担額の上限を設定し、その上限を超えた分を支給します。
例えば、1割負担の利用者が1万円の訪問介護サービスを利用した際、自己負担額は1,000円となります。しかし、毎日のように介護サービスを利用すると、かなり大きな金額になることもあるでしょう。また、同じ世帯にサービス利用者が複数人いる場合は、世帯ごとの介護サービス利用額はかなり大きくなります。
要介護者の状態によって高額になった介護サービス利用料を軽減する目的で作られた制度が、高額介護サービス費なのです。この制度により、長期にわたる介護が必要な場合でも、安心して介護保険制度を利用できます。
令和3年8月から高額介護サービス費の負担上限額が見直され、高所得者の上限額が引き上げられました。最新の高額介護サービス費の自己負担限度額は以下のとおりです。
課税・非課税 | 区分 | 自己負担の上限額(月額) | |
市町村民税課税世帯 | 課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 | 140,100円(世帯) | |
課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1,160万円)未満 | 93,000円(世帯) | ||
市町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満 | 44,400円(世帯) | ||
市町村民税課税世帯 | 合計所得金額と課税年金収入額の合計が80万円を超える方 | 24,600円(世帯) | |
・合計所得金額と課税年金収入額の合計が80万円以下の方 | 24,600円(世帯) | ||
生活保護を受給している方 | 15,000円(世帯) |
参考:厚生労働省「高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」
高額介護サービス費は、1ヶ月の自己負担上限額を超過した場合に、超えた金額が払い戻される制度です。一般的な所得の方(市町村民税の課税世帯で年収約770万円未満)の場合は、44,400円が自己負担上限額となります。
この負担上限額は、1世帯における1ヶ月あたりの合計所得額で決定しますが、合算される所得額は介護サービスを利用している方のみです。
例えば、同じ世帯に介護サービスを利用していない若年層が同居していたとしても、その方の所得は高額介護サービス費の計算に合算されることはありません。
また、同世帯に介護サービス利用者が複数人いる場合は、個人の利用者負担額で按分され、利用者それぞれに振り込まれます。
高額介護サービス費の算出において、非課税世帯とは世帯全員が非課税の場合を指しています。
例えば、介護サービスを利用する夫婦が非課税だったとしても。課税対象となる30歳の息子が同居している場合は非課税世帯として計算されません。
同居者全員が非課税の場合のみ非課税世帯と判断されるため注意しましょう。
一世帯あたりの高額介護サービス費支給対象者が複数人の場合、対象者ごとに按分して支給しなければいけないため、支給額の計算は複雑になります。ここでは、高額介護サービス費の支給額を計算する方法について解説します。
一世帯あたりの支給対象者が1人の場合、「自己負担額-負担上限額」で計算します。
例えば、自己負担上限額が24,600円の単身の方が1か月に30,000円の自己負担をした場合、計算式は以下のとおりです。
上記のとおり、単身世帯の場合は、介護サービス利用者の自己負担額から負担上限額を差し引くだけで計算できます。
一世帯に高額介護サービス費の支給対象者が2名以上いる場合、「(世帯全体の利用者負担額-世帯の自己負担の上限額)×本人の自己負担額/世帯全員の自己負担額」で計算します。
例えば、夫婦2人で市民税非課税世帯(世帯の自己負担上限額24,600円)であり、1か月に夫が30,000円、妻が20,000円の自己負担をした場合、高額介護サービス費の計算式は以下のとおりです。
上記の計算式で算出された高額介護サービス費の払い戻し金が、夫婦それぞれに支給されます。一世帯に支給対象者が複数人いる場合、各介護サービス利用者ごとに按分されるため、単身世帯と比較して計算式が複雑です。
高額介護サービス費は、介護保険で利用できるサービスを対象としています。厚生労働省の介護サービス情報公表システム「公表されている介護サービスについて」によると、介護保険で利用できるサービスとして、以下のように記載されています。
介護保険で利用できるサービス |
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引用:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「公表されている介護サービスについて」
介護保険制度で上記の介護サービスを利用した場合、利用料金の1割〜3割を自己負担しなければいけません。この自己負担額が上限額を超過した場合に、高額介護サービス費によって超過分が払い戻されるのです。
高額介護サービス費は、介護に関係する費用の全てが対象となる制度ではありません。介護サービスを利用する際に発生する費用のなかで、高額介護サービス費の対象とならない費用は以下の通りです。
高額介護サービス費の対象とならないもの |
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参考:公益財団法人 生命保険文化センター「公的介護保険で自己負担額が高額になった場合の軽減措置とは?」
上記されている4つの費用は、介護保険適用外のものです。しかし、いずれも介護サービスを利用する際に発生する費用なので、高額介護サービス費として計算されものと勘違いしやすいため注意しておきましょう。
高額介護サービス費は、原則として本人償還払いによって払い戻されます。本人償還払いとは、一度自己負担額を支払った後に、申請手続きを行うことで払い戻されるものです。
本人償還払いの場合、高額になった介護サービス費を一度自己負担で全て支払わなければならず、その後払い戻されるまで一定の期間が必要なデメリットもあります。
一方で、高額介護サービス費では、受領委任払いも可能です。受領委任払いとは、介護サービスを提供している事業所や施設の窓口で自己負担上限額のみ支払う制度のことです。
受領委任払いの場合、高額になった介護サービス費を自己負担する必要がなく、自分で自治体窓口に行って申請手続きをする必要もありません。ただし、受領委任払いを利用できる介護サービス事業所は限定されるため、利用されている施設へ一度確認することをおすすめします。
高額介護サービス費制度を利用する場合、一連の手続きによって申請しなければ支給されません。ここでは、高額介護サービス費を利用する際の流れについて解説します。
高額介護サービス費の対象となった方に対して、各自治体から申請書類が郵送されます。申請書類が郵送される時期は明確に決まっていませんが、おおむね3ヶ月以内には郵送されると考えておいてもよいでしょう。高額介護サービス費の申請書類が郵送されてこない場合、各自治体の窓口へ問い合わせることをおすすめします。
郵送されてきた高額介護サービス費の申請書類に必要事項を記入します。記入箇所がわからない場合は、各自治体の窓口へ問い合わせましょう。
必要事項を記入した申請書類を各自治体の受付窓口へ提出します。直接窓口へ提出する方法のほか、郵送で送ることも可能です。申請する際には、以下の書類が必要です。
また、マイナポータルを利用してオンライン上で手続きできる自治体もあるため、詳しく知りたい方は各自治体窓口へ問い合わせることをおすすめします。
申請書類を提出後、支給が決定すれば支給決定通書が届き、超過した自己負担分の金額が振り込まれます。
高額医療・高額介護合算制度とは、1年間(毎年8月から翌年7月まで)の医療保険と介護保険の自己負担額を合算し、一定の自己負担限度額を設ける制度です。
この限度額は所得区分に応じて定められ、自己負担限度額を超えた部分は医療保険と介護保険の比率に応じて両制度から払い戻されます。
この制度は、医療と介護の費用が重なる家庭における経済的負担を軽減する目的で作られた制度です。介護サービスだけでなく、医療サービスも利用している方は、高額医療・高額介護合算制度の利用を検討してもよいでしょう。
参考:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」
介護サービスの利用料金が高額になった場合、高額介護サービス費を利用しましょう。しかし、高額介護サービス費の払い戻し金を受け取る際には注意すべき点もあります。ここでは、高額介護サービス費を利用する方の注意点について解説します。
高額介護サービス費は、原則として本人償還払いとなっており、一度介護サービス利用料を支払わなければいけません。その後、各自治体から通知が届き、申請書類を提出、支給決定通知書が郵送され、受け取るまでに数ヶ月の時間が必要です。一度自己負担分を支払った後、高額介護サービス費の払い戻し金が支給されるに時間がかかる点には注意しましょう。
高額介護サービス費は、サービスを利用した翌月の1日から起算して2年以内に申請しなければ、払い戻しを受けることはできません。ただし、利用者負担額の支払いがサービスを利用した翌月以降の場合には、支払った日の翌日から起算するため注意しましょう。
高額介護サービス費の請求において、訪問介護事業所や通所介護事業所が行う手続きはありません。しかし、利用している方が高額介護サービス費の対象となった場合、支給決定通知書や領収書を保管しておくようにアドバイスするとよいでしょう。
一部の介護サービス費は、医療費控除の対象となります。確定申告の際に必要となる場合もあるため、高額介護サービス費を利用した支給決定通知書や介護保険サービスを利用した際の領収書は保管しておかなければいけません。
利用者が医療費控除で使うことを知らない場合もあるため、事業所側からアドバイスするとよいでしょう。
この記事では、高額介護サービス費についてわかりやすく解説しました。
高額介護サービス費とは、個人の所得や世帯の所得に応じて自己負担額の上限を設定し、その上限を超えた介護サービス利用料の自己負担分を払い戻す制度のことです。
高額介護サービス費の対象となる自己負担額の上限は、課税世帯と非課税世帯の所得に応じて設定されており、上限額を超えた自己負担額を計算して払い戻されます。また、一世帯で介護サービス利用者が複数人いる場合、介護サービス利用者ごとに按分して計算されます。
高額介護サービス費の対象となる費用は、介護保険の支給対象となっている費用のみです。そのため、福祉用具購入費や施設サービスの食費などは対象外となる点には注意しましょう。
高額介護サービス費は、原則として本人償還払いとなっています。そのため、最初は介護サービス費の自己負担分を、一旦全て自分で支払わなければいけません。その後、各自治体から届いた申請書類を提出することで、高額介護サービス費の払い戻し金が受け取れます。一方、受領委任払いを利用することで、前もって自己負担上限額分のみを支払えますが、受領委任払いを利用できる施設は限られているため注意しましょう。
介護保険制度を利用した介護サービスは、利用期間が長期化し、介護サービス費が増大することもあります。増大した介護サービス費を長期間支払うことで、経済的な負担が大きくなるでしょう。
自己負担上限額を超過した場合は、積極的に高額介護サービス費を活用することをおすすめします。
参考資料:
厚生労働省 介護サービス情報公表システム「公表されている介護サービスについて」
公益財団法人 生命保険文化センター「公的介護保険で自己負担額が高額になった場合の軽減措置とは?」
厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」