この記事では、介護保険法の概要と、これまでのあゆみから2040年に向けての業界予測をしていきます。
目次
高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加・介護期間の長期化など介護ニーズが増大する一方、核家族化の進行、介護する家族の高齢化など、要介護高齢者を支えてきた家族をめぐる状況も変化したことにより、従来の老人福祉・老人医療制度による対応には限界があるという背景から、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組み(介護保険)を創設するために、1997年に介護保険法が成立し、2000年に施行されることとなりました。
基本的な考え方は、下記3点です。
財源は公費(税金)が50%、保険料が50%で賄われており、令和2年度予算 介護給付費:11.5兆円)総費用ベース:12.4兆円の内訳は以下の通りです。
【公費(税金)】国庫負担金(調整交付金)5%(0.6兆円)、国庫負担金(定率分)20%(2.1兆円)、都道府県負担金12.5%(1.6兆円)、市町村負担金12.5%(1.4兆円)
※施設の給付費の負担割合国庫負担金(定率分)15%都道府県負担金 17.5%
【保険料】第1号保険料(65歳以上)23%(2.6兆円)、第2号保険料(40~64歳)27%(3.1兆円)
※第1号・第2号保険料の割合は、介護保険事業計画期間(3年)ごとに、人口で按分
また、これ以外に介護サービスを使用した場合はその収入により1割から3割の自己負担を支払うことになります。
介護保険の加入者(被保険者)は65歳以上の第1号保険者、40歳から64歳以までの第2号保険者に分けられ、第一号保険者は介護認定を受けることで、第2号保険者は末期がんや関節リウマチ等の老化による病気が原因で要支援・要介護状態になった場合に介護保険制度を利用することが可能です。
【第1号被保険者】65歳以上
対象者:要介護状態(寝たきり、認知症等で介護が必要な状態)又は要支援状態(日常生活に支援が必要な状態)
対象人数:3,525万人(65~74歳:1,730万人 75歳以上:1,796万人)
保険料:市町村が徴収(原則、年金から天引き)
【第2号被保険者】40歳から64歳まで
対象者:要介護、要支援状態が、末期がん・関節リウマチ等の加齢に起因する疾病(特定疾病)による場合に限定
対象人数:4,192万人
保険料:医療保険者が医療保険の保険料と一括徴収
介護報酬とは、事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われる介護サービスの費用を言います。また、事業所が所在する地域等も考慮した、サービス提供に要する平均的な費用の額を勘案して設定することとされています。(介護保険法第41条第4項等)
介護サービスを受ける際は『単位』というものを用いて計算を行います。
要介護認定を受けると、その介護度ごとに『区分支給限度額』が割り振られ、これが介護の世界で使える月のお金の上限であり、介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネージャー)はこの上限額を超えないように毎月ケアプランを作成します。
例えば生活援助(掃除、調理等)の基本単位は20分以上45分以内で183単位、45分以上で225単位、身体介護(入浴や食事介助等)の基本単位は20分~30分250単位、30分~60分396単位と決定しており、この単位は日本全国共通です。
また、この基本報酬に『加算』や『減算』が追加され、これに地域に応じて決定されている『地域区分』の数字をかける事で介護報酬を算出させ、個人個人の収入に応じた負担額を割合計算することで、介護サービスを受けた方の負担額(利用者負担額)を算出することが出来ます。
例)身体介護60分を月4回実施した場合 利用者負担額1割 地域区分11.4円(加算・減算なし)
396単位(身体介護60分の値段)×4回(その月の実施回数)×11.4円(地域区分)=18076.6円
18076.6円÷10=1805円(利用者自己負担額)
正式な金額は、毎月介護支援専門員(ケアマネージャー)から提供がある『サービス利用表の2枚目(別表)』の、利用者負担欄で確認することが出来ます。
介護保険制度では、寝たきりや認知症等で常時介護を必要とする状態(要介護状態)になった場合や、家事や身支度等の日常生活に支援が必要であり、特に介護予防サービスが効果的な状態(要支援状態)になった場合に、介護の必要度合いに応じた介護サービスを受けることができます。
この要介護状態や要支援状態にあるかどうかの程度判定を行うのが要介護認定(要支援認定を含む。)であり、介護の必要量を全国一律の基準に基づき、客観的に判定する仕組みです。
【要介護認定の流れ】
【主治医意見書とは】
主治医意見書は、かかりつけ医が申請者の既往歴・心身の状況等についてまとめた書類です。認知症の有無・筋力の状態・日常生活の自立度など、申請者の心身・生活状況が細かく記載され、医学的な観点から介護保険サービスにおける医療系サービスの使用の必要・不必要にも言及しているものです。
主治医意見書は、主に要介護認定の申請時に必要になる書類であり、要介護認定における主治医意見書の目的は、医学的観点から要介護度を判断するためのものです。
また、書式は全国で統一されており、この書類を確認するためには事業所側は開示請求を行う必要があり、開示請求が可能なのは、居宅介護支援事業者、地域包括支援センター、介護保険施設等で『介護計画』の作成を行う場合のみで、介護支援専門員以外のサービス事業所には開示が認められていません。
【要介護認定にあたっての主治医意見書の入手方法】
要介護認定の申請にあたって必要となる主治医意見書の入手方法は2つ有り、どの方法で入手すべきかは、市町村によって異なります。
1つ目のもらい方は、直接かかりつけ医に依頼する方法で、市町村などの窓口で主治医意見書の用紙を入手し、これをかかりつけ医に持参して記入を依頼します。
主治医意見書は、申請者の心身や生活状況を細かに査定するための書類であり、その記載項目は多岐にわたります。作成にはある程度の時間がかかるため、事前に『要介護認定で必要になる』ことを伝えて依頼し、余裕をもったスケジュールで申請が行えるようにしましょう。
2つ目の主治医意見書のもらい方は、市町村がかかりつけ医に作成を依頼する方法です。
申請者は要介護認定の申請の一環として、市町村の窓口にかかりつけ医の基本情報を伝え、この後に市町村からかかりつけ医に主治医意見書の用紙が送付され、医師から市町村に送り返されるという流れになります。
この場合もあらかじめかかりつけ医に『要介護認定で必要になる』ことを伝えて依頼し、余裕をもったスケジュールで申請が行えるようにしましょう。
また、かかりつけ医がいない場合は、かかりつけ医をつくるか自治体指定の医師を受診することになります。
介護事業を運営するにあたっては、介護に関する法令の様々なルールを遵守する必要が有りこれらのルールは以下3点に定められています。
上記3つ以外に、関連する法令の遵守も義務付けられており『労働基準法』『労働安全衛生法』『健康保険法』等の雇用に関する法律や、送迎を実施する場合は『道路交通安全法』等が関わってきます。
法令は国全体での守るべきルールが定められており、介護保険事業を運営するにあたっての詳細なルールは省令である『指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)』にて定められています。
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)とは、介護事業を運営するために必要なルールを定めた省令で、大きく分けて3つの柱で構成されています。
介護事業を運営するにあたって必要な役職、資格、配置人数を定めたものです。管理者という事業所の最高責任者である役職、介護サービスごとの窓口となるサービス提供責任者や生活相談員等の役職、直接介護にあたる介護職、医療や機能訓練をメインとする医療専門職等の役職等で構成されており、管理者以外は介護サービスごとにご利用者様が安全に介護サービスを受けるために最低限必要だとされる役職と資格、配置が定められています。
【用語の定義】
常勤換算方法:
介護サービス事業所の管理者を除く全従業者の勤務延時間数を、就業規則などで定めている常勤が働くべき時間で除する(割る)ことにより、『非常勤職員を含む全従業員の時間数を足し、常勤の時間に換算し“常勤が居たとしたら何人分になるか”』を計算させる方法が常勤換算方法と言います。
この場合の勤務延時間数は、介護サービス事業所の指定に係る事業のサービスに従事する勤務時間の延べ数で、例えば訪問介護と訪問看護の指定を重複して受ける場合であって、ある従業者が訪問介護員等と看護師等を兼務する場合、訪問介護員等の勤務延時間数には、訪問介護員等としての勤務時間だけを算入することとなります。
勤務体制及び勤務形態一覧表:
介護保険法に基づく各種サービスについて、人員配置基準が満たされているかを確認するため、その算出に必要となる数値記載された一覧を表し、令和4年現在全国統一の書式となっています。変更届提出時や運営指導(実地指導)等で提出が求められる書類ですが、配置基準を満たしているか否かは予定・実績で確認する必要があり、この書式を用いて根拠を残している介護サービス事業所が多いです。
勤務延時間数:
勤務体制及び勤務形態一覧表上、サービスの提供に従事する時間・サービス提供の準備等を行う時間(待機の時間を含む。)・サービスの提供に伴う事務の時間の合計数です。また、職員が残業を行ったとしても常勤換算数は『1』とされ、1.2、1.5等『1』を超える換算はできません。
常勤:
雇用の契約に関わらず、1週間あたりの勤務時間が就業規則に定める『常勤』の時間数に達した場合は勤務体制及び勤務形態一覧表上は『常勤』として取り扱います。
反対に雇用の契約が『常勤・正社員』でも兼務している場合等で1週間あたりの勤務時間が就業規則に定める『常勤』の時間数に達していない場合は勤務体制及び勤務形態一覧表上は『非常勤』として取り扱います。
専従:
原則として、サービス提供時間帯を通じてその事業所のサービス以外の職務に従事しないことをいいます。この場合のサービス提供時間帯とは、その従業者のその事業所における勤務時間従業者の常勤・非常勤の別を問いません。
【国Q&A】(運営基準等に係るQ&A(平成 14 年3月 28 日))【常勤換算方法により算定される従業者の休暇等の取扱い】
(問)常勤換算方法により算定される従業者が出張したり、また、休暇を取った場合に、その出張や休暇に係る時間は勤務時間としてカウントするのか。
(回答)「常勤換算方法」とは、非常勤の従業者について「事業所の従業者の勤務延時間数を当該事業所において常勤の従業者が勤務すべき時間数で除することにより、常勤の従業者の員数に換算する方法」(居宅サービス運営基準第2条第8号等)であり、また、「勤務延時間数」とは、「勤務表上、当該事業に係るサービスの提供に従事する時間(又は当該事業に係るサービスの提供のための準備等を行う時間(待機の時間を含む。))として明確に位置づけられている時間の合計数」である(居宅サービス運営基準解釈通知第二・2(2)等)。以上から、非常勤の従業者の休暇や出張(以下「休暇等」という。)の時間は、サービス提供に従事する時間とはいえないので、常勤換算する場合の勤務延時間数には含めない。なお、常勤の従業者(事業所において居宅サービス運営基準解釈通知第二・2(3)における勤務体制を定められている者をいう。)の休暇等の期間については、その期間が暦月で1月を超えるものでない限り、常勤の従業者として勤務したものとして取り扱うものとする。
【国Q&A】(平成 27 年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(平成 27 年4月1日))
(問1)各加算の算定要件で「常勤」の有資格者の配置が求められている場合、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第 76 号。以下「育児・介護休業法」という。)の所定労働時間の短縮措置の対象者について常勤の従業者が勤務すべき時間数を 30 時間としているときは、当該対象者については 30 時間勤務することで「常勤」として取り扱って良いか。
(回答)そのような取扱いで差し支えない。
(問3)各事業所の「管理者」についても、育児・介護休業法第 23 条第1項に規定する所定労働時間の短縮措置の適用対象となるのか。
(回答)労働基準法第 41 条第2号に定める管理監督者については、労働時間等に関する規定が適用除外されていることから、「管理者」が労働基準法第 41 条第2号に定める管理監督者に該当する場合は、所定労働時間の短縮措置を講じなくてもよい。なお、労働基準法第 41 条第2号に定める管理監督者については、同法の解釈として、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるとされている。このため、職場で「管理職」として取り扱われている者であっても、同号の管理監督者に当たらない場合には、所定労働時間の短縮措置を講じなければならない。また、同号の管理監督者であっても、育児・介護休業法第 23 条第1項の措置とは別に、同項の所定労働時間の短縮措置に準じた制度を導入することは可能であり、こうした者の仕事と子育ての両立を図る観点からは、むしろ望ましいものである。
【国Q&A】(令和 3 年度介護報酬改定に関する(Q&AVol.1)(令和3年3月 19 日))
(問1)人員配置基準や報酬算定において「常勤」での配置が求められる職員が、産前産後休業や育児・介護休業等を取得した場合に、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算することで、人員配置基準を満たすことを認めるとあるが、「同等の資質を有する」かについてどのように判断するのか。
(回答)介護現場において、仕事と育児や介護との両立が可能となる環境整備を進め、職員の離職防止・定着促進を図る観点から、以下の取扱いを認める。
<常勤の計算>育児・介護休業法による育児の短時間勤務制度を利用する場合に加え、同法による介護の短時間勤務制度や、男女雇用機会均等法による母性健康管理措置としての勤務時間の短縮等を利用する場合についても、30 時間以上の勤務で、常勤扱いとする。
<常勤換算の計算>職員が、育児・介護休業法による短時間勤務制度や母性健康管理措置としての勤務時間の短縮等を利用する場合、週 30 時間以上の勤務で、常勤換算上も1と扱う。
<同等の資質を有する者の特例>「常勤」での配置が求められる職員が、産前産後休業や育児・介護33ww休業、育児休業に準ずる休業、母性健康管理措置としての休業を取得した場合に、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算することで、人員配置基準を満たすことを認める。なお、「同等の資質を有する」とは、当該休業を取得した職員の配置により満たしていた、勤続年数や所定の研修の修了など各施設基準や加算の算定要件として定められた資質を満たすことである。
介護事業ごとに運営するにあたっての必要な広さ、設備、備えるべき備品等を定めたものです。
居宅系サービスには事務室、面接室(四方を囲み個人情報保護の観点から情報の保護が十分である)が有ること、個人情報が記載されている書類が鍵付きの書庫に保管ができる状態であること、手指洗浄・消毒、ペーパータオル、マスク等の衛生用品が備えられていること等が基準になっています。
施設系、通所系サービスには、事務室、面接室、鍵付き書庫等の他に、ご利用者1名あたりの確保すべきスペースや、ご利用者様が安全に過ごせる設備等の基準が定められています。
また、介護保険法の他に建築基準法や消防法の遵守が定められており、新規の申請時にはあらかじめ申請先の市町村との協議が必要になります。
【国Q&A】(全国介護保険担当課長ブロック会議資料 Q&A)
(問1)消防設備その他の非常災害に際して必要な設備を設ける旨を規定するとされているが、その具体的内容如何。
(回答)1「消防設備その他の非常災害に際して必要な設備」とは、消防法その他の法令等に規定された設備を示しており、それらの設備を確実に設置しなければならない。
2 なお、認知症高齢者グループホーム等の消防設備に関しては、先般の火災事故を契機として、現在消防庁において「認知症高齢者グループホーム等における防火安全対策検討会」 が開催されているところであり、その結論に基づき、消防法に基づく規制について所要の改正が行われる予定である。
運営基準には事業を運営するにあたって必要な次項が定められています。
重要事項に定めるべき次項や、ご利用者様に分かりやすい説明を実施すること等が定められています。
実施すべき研修の体制や、事故・苦情の体制、衛生管理体制、災害時や緊急時の体制等が定められており、項目ごとに備えるべき体制が定められています。
事業を運営するにあたっての基本的理念や、具体的に行うべき業務について定めています。
具体的に行うべき作業や作成すべき書類、実施頻度や行うべき業務を定めています。
これまで、国や自治体は2025年に向けて介護保険の設計をし、加算などを用いて介護事業所を国が目指す方向へと導いてきました。
2025年は、1947年~1949年の第一次ベビーブームで生まれた「団塊世代」が75歳となる年でした。消費税の10%への増税は、2025年問題への対策である「社会保障、税一体改革」のために実施されたものです。
2040年になると、1971年~1974年の第二次ベビーブームに生まれた「団塊ジュニア世代」が65歳〜70歳となり、これまで以上に労働人口が減る為、今はこの2040年に向けた施策が取られ始めています。
日本の労働力は、2040年を目安に著しく低下し、2040年に高齢者が増加するのは、政令指定都市等の主要都市だといわれています。
高齢者が増えることで税収が減り自治体が機能しなくなり、水道や電気、鉄道、道路などのインフラまでもが維持できなくなるともみられています。
次回の報酬改定は2024年であり、医療の診療改定とのダブル改定と言われています。
2040年を見据えたこれからの報酬改定を想定し、流れを読みながら経営をしていくことが大切です。
報酬改定は3年に1回実施されますが、昨今は臨時改定も多く、特に10月に実施されることが多くなっています。
ニュースでは『プラス改定』と呼ばれていますが、ふたを開けると『加算ばかり新設されて、基本報酬は下がっている』というのが現実です。なぜこのように複雑な報酬改定を重ねているかというと、国が2040年を見据えて構築していきたい制度に紐づくものには『加算』として報酬を用意し、減らしたい・廃止したいものには『減算』として介護事業所を2040年にむけて誘導しているという事が言えます。
このところの人員基準の緩和は、『業務を効率化して担当人数を増やす』施策を押している事にも注意が必要です。
1.感染症や災害への対応力強化
感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築しなければいけない。
【令和3年改定事項】
①日頃からの備えと業務継続に向けた取組の推進
・感染症対策の強化
・業務継続に向けた取組の強化
・災害への地域と連携した対応の強化
・通所介護等の事業所規模別の報酬等に関する対応
新型コロナウイルスの発症前の課題は4つでしたが、度重なる災害(東日本、熊本、千葉)と新型コロナウイルスの中でもライフラインを担う業界として、出来る限りの対応を可能にする体制の構築が介護事業所に対し求められることとなりました。
また、業務を継続していくための評価として令和4年2月より『介護職員処遇改善支援補助金』が開始しており、支給対象外の職種に対しては『緩和措置』として接触しない手段が継続して許可されている。
2.地域包括ケアシステムの推進
住み慣れた地域において、利用者の尊厳を保持しつつ、必要なサービスが切れ目なく提供されるよう取組を推進
【令和3年改定事項】
①認知症への対応力向上に向けた取組の推進
・認知症専門ケア加算の訪問サービスへの拡充
・無資格者への認知症介護基礎研修受講義務づけ
②看取りへの対応の充実
・ガイドラインの取組推進・施設等における評価の充実
③医療介護の連携推進
・老健施設の医療ニーズへの対応強化
・長期入院患者の介護医療院での受入れ推進
④在宅サービス、介護保険施設や高齢者住まいの機能・対応強化
・訪問看護や訪問入浴の充実・緊急時の宿泊対応の充実
・個室ユニットの定員上限の明確化
⑤ケアマネジメントの質の向上と公正中立性の確保
・事務の効率化による逓減制の緩和・医療機関との情報連携強化
・介護予防支援の充実
・過疎地域等への対応(地方分権提案)
地域で要介護者が自立した生活を営むための課題は『認知症』『看取り』『介護と医療の連携強化』の体制が不十分だということであり、2040年に向けてこの3つを積極的に取り組んでいくことが介護事業所に求められています。
また、この2つの課題解決のために医療との連携体制の構築も課題になっており、特に居宅介護支援の介護支援専門員に対しては『医療連携』がキーワードで、医療連携を行う事での加算取得が経営を安定させる大きなポイントともなっています。
3.自立支援・重度化防止の取組の推進
制度の目的に沿って、質の評価やデータ活用を行いながら、科学的に効果が裏付けられた質の高いサービスの提供を推進
【令和3年改定事項】
①リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組の連携・強化
・計画作成や多職種間会議でのリハ、口腔、栄養専門職の関与の明確化
・リハビリテーションマネジメントの強化
・退院退所直後のリハの充実
・通所介護や特養等における外部のリハ専門職等との連携による介護の推進
・通所介護における機能訓練や入浴介助の取組の強化
・介護保険施設や通所介護等における口腔衛生の管理や栄養マネジメントの強化
②介護サービスの質の評価と科学的介護の取り組みの推進
・LIFE(CHASE・VISIT)情報の収集・活用とPDCAサイクルの推進
・ADL維持等加算の拡充
③寝たきり防止等、重度化防止の取組の推進
・施設での日中生活支援の評価
・褥瘡マネジメント、排せつ支援の強化
医療分野においては1990年代よりエビデンスに基づく医療・支援が提供されていたが、介護分野においてはこのようなデータの収集、検証はなく、介護支援専門員『個』の手腕により介護計画が立案され、提供されてきました。
介護支援専門員の得意分野や人脈により提供される支援が異なるという、ご利用者様にとっての不公平さをなくし、ある一定の根拠に基づき介護・支援が提供されるようになるよう、予防及び改善の取り組みを評価しながら『改善の成功事例』をデータベースに入れていく取り組みが進んでいます。
この『成功事例が詰まったビックデータ』は、国際化も視野に入れICHI 等への対応を考慮し検討を進めていくとされています。(日本の介護サービスを海外へ輸出することも視野に入れた施策になっている)
4.介護人材の確保・介護現場の改革
喫緊・重要な課題として、介護人材の確保・介護現場の革新に対応
【令和3年改定事項】
①介護職員の処遇改善や職場環境の改善に向けた取組の推進
・特定処遇改善加算の介護職員間の配分ルールの柔軟化による取得促進
・職員の離職防止・定着に資する取組の推進
・サービス提供体制強化加算における介護福祉士が多い職場の評価の充実
・人員配置基準における両立支援への配慮
・ハラスメント対策の強化
②テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担
・軽減の推進
・見守り機器を導入した場合の夜間における人員配置の緩和
・会議や多職種連携におけるICTの活用
・特養の併設の場合の兼務等の緩和
・3ユニットの認知症GHの夜勤職員体制の緩和
・署名・押印の見直し・電磁的記録による保存等・運営規程の掲示の柔軟化
この項目で特に注意が必要なポイントは、下記3点です。
①処遇改善加算の取得
処遇改善加算は上位のものを積極的に取得していく体制を整えることが推奨され、令和4年2月から開始する介護職員処遇改善支援補助金についても取得を実施し、国が実施する介護従事者の賃金底上げの施策に乗り遅れないことが大切です。
②人員基準緩和
昨今の審議会では『生産性』という言葉が飛び交っています。国は2040年の労働人口減少を見据え、ICT導入支援事業等の現場を後押しする事業を設立し、介護現場のICT化の速度を上げる取り組みをしています。
『業務を効率化して1人当たりの担当者数を増やす』これが今回の改定の大きな舵切りのポイントです。
③文書負担軽減や手続きの効率化
介護現場だけでなく、自治体職員も人材不足の問題を抱えています。
このことから、全国共通の書式に統一したり等の工夫が始まっていますが、注目すべきは令和4年度より『運営指導(実地指導)の1部オンライン化』が始まるという点です。
介護現場とおなじく、自治体においても『業務効率化』が求められています。
5.制度の安定性・持続可能性の確保
必要なサービスは確保しつつ、適正化・重点化を図る
【令和3年改定事項】
①評価の適正化・重点化
・区分支給限度基準額の計算方法の一部見直し・訪問看護のリハの評価
・提供回数等の見直し・長期間利用の介護予防リハの評価の見直し
・居宅療養管理指導の居住場所に応じた評価の見直し
・介護療養型医療施設の基本報酬の見直し
・介護職員処遇改善加算(Ⅳ)(Ⅴ)の廃止
・生活援助の訪問回数が多い利用者等のケアプランの検証
②報酬体系の簡素化
・月額報酬化(療養通所介護) ・加算の整理統合(リハ、口腔、栄養等)
6.その他
・介護保険施設におけるリスクマネジメントの強化
・高齢者虐待防止の推進・基準費用額(食費)の見直し令和3年度介護報酬改定の概要
※うち、新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価0.05%(令和3年9月末までの間)
・基本報酬の見直し
国が進めていきたい方向には『加算』が用意されており、
一方、無くしたい・減らしたい方向には『減算』が用意されています。
審議会などでの議論の内、『評価する』と書かれているものは報酬が上がる可能性が高く、『見直す』『廃止する』と書かれているものは報酬が
減る予想を立てることが出来ます。
また、常態化している加算については『運営基準』『基本報酬』へと組み込まれ、『加算要件を満たすことが当たり前、満たさない事業所は運営基準違反』
と言うような仕組みになってきていることにも注目が必要です。
2024年介護報酬改定に向けた話し合いが今後進んでいくこととなりますが、すでに2040年を見据えて舵が切られている中で、大きく方針や考え方が変わるということは考えにくい状態です。
そんな中で私たちが出来ることは、『国が考えている事』を正しく理解し、ある程度その流れに乗りながら上手に利用していくことも大切です。
2024年に向けて私たちができる事は、まず2021年の介護報酬改定に対応すること、次に2024年に向けた準備を行う事です。
この準備の先には2040年の人材不足問題が控えていることを忘れずに、『だから業務を効率化するんだ』『だから加算で導かれているんだ』という理解をしながら予測していきましょう。