運動器機能向上加算は、運動機能の向上が必要と考えられる方に対して、必要な介護予防サービスを提供した際に算定できる加算です。算定することで利用者への適切なサービス提供や事業所の収益改善につなげることができますが、具体的な算定要件がよくわからず、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では運動器機能向上加算の全容について詳しく解説します。運動器機能向上加算を算定するための算定要件や、2024年度の介護報酬改定に伴う影響についても紹介するのでぜひ参考にしてください。
運動器機能向上加算は、生活機能の低下や要介護状態になる恐れがあり、運動器の機能向上が必要と考えられる方が利用する場合に算定できる加算です。住み慣れた地域での日常生活の維持や改善を目的としており、利用者が改善方法を習得したり運動方法が定着したりすることを目的としています。
対象となる方には要支援者1・2もしくは総合事業対象者があげられ、これらの人に介護予防サービスを提供をした場合、1ヵ月に1回算定できます。なお、要介護認定を受けている方にサービス提供をおこなった場合は、算定することができません。
2024年度の介護報酬改定に向けて、「運動器機能向上加算の見直し」を検討することが、厚生労働省より示されました。運動器機能向上加算要件を基本報酬の算定要件にするというものです。
理由は、全国の運動器機能向上加算の算定率は令和4年10月時点で89.7%と非常に高いためです。このことから、運動器機能向上加算は廃止となり、運動器機能向上サービス提供は、必須になると見込まれています。
なお、運動器機能向上加算分がどのように基本報酬に上乗せされるかについては、現段階では決まっておらず、動向が注目されています。
運動器機能向上加算の算定対象となっている事業所は、総合事業の通所型サービスと通所リハビリテーションの2つです。また、運動器機能向上加算の対象者には、要支援1・2の方および総合事業の対象者が当てはまります。なお運動器機能向上加算の管轄は市区町村なため、地域によって要件が異なることがあります。算定の際はあらかじめ確認するようにしましょう。
運動器機能向上加算の単位数や算定要件は以下の通りです。
総合事業対象者・要支援の方1名あたり225単位/月となっています。
運動器機能向上加算の算定のためには、プログラムの提供時間帯に機能訓練指導員の対象となる者を最低1名配置する必要があります機能訓練指導員の対象となる資格は、以下のとおりです。
【機能訓練指導員の対象となる資格者】
なお、機能訓練指導員については以下の記事で詳しく解説しているのであわせて参考にしてください。
機能訓練指導員の仕事内容は?資格要件と職種の特徴について解説
運動器機能向上訓練サービス提供の流れについて説明します。
まず、運動器機能向上訓練の開始前に利用者のニーズ把握し、情報収集を行います。利用者の健康状態、生活習慣、体力水準などを確認しましょう。利用者の体力の水準を知るには、体力測定を行うのがおすすめです。また、利用者の日常生活や人生をどのように過ごしたいかなどのニーズも把握します。
情報収集を十分に終えたら、医師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護職員・その他の職種が共同して、個機能訓練指導員が利用者ごとの「運動器機能向上計画書」を作成します。
その後は、ゴールに向けた運動を提供し、運動器機能向上サービスを実施します。また、実施した内容の記録を残しておくことも忘れないようにしましょう。
サービス提供時のポイントとして、運動器機能向上計画書の代わりに、介護予防通所介護計画書(ケアプラン)の中に記載して代用できることを覚えておきましょう。なお、当然内容に整合性が保たれていることが必須条件となります。
また、注意点として一度に複数の利用者にサービスを提供すると、運動器機能向上加算の算定はできません。個別に訓練する必要があります。しかし、集団的なサービスを妨げるものではありません。同じ時間に複数人のサービスを提供する場合は、計画書に基づいて利用者ごとに個別で訓練を実施しましょう。
運動器機能向上サービスの実施後は、月に1回、目標に対するモニタリングを実施します。モニタリングを実施する目的は、進捗状況をチェックするためです。必要であれば計画書の修正も行いましょう。
さらに計画期間終了の3ヵ月後に、長期目標の達成度・運動器機能状況についての評価を実施します。こうして最終目標の達成(ゴール)に向け、計画書の見直しや、立案が繰り返されていきます。
利用者の健康状態、生活習慣、体力水準等の個別状態を把握しなければなりません。そのためには、体力測定を実施しましょう。体力測定は、次のような点に注意して実施することが必要です。
体力測定の項目は、具体的には示されてはいませんが、利用者にあったものを選んで実施しましょう。以下に参考になる体力測定の種類を紹介します。
体力測定の種類 | 測定できる能力 |
握力測定 | 全身の筋力 |
開眼状態片足立ちテスト | 足の筋力や立位バランス |
立ち座りテスト | 下半身の筋力 |
長座体前屈 | 身体の柔軟性 |
TUG(TimeUp&Go) | 動的バランス |
FRT(Functional Reach Test) | 立位・座位のバランス |
5m歩行テスト | 歩行能力 |
このような体力測定を定期的に行い、結果をもとに目標の進捗状況をアセスメントし、記録します。必要に応じて、訓練内容の見直しを行って行かなければなりません。
個別に収集した情報をもとに多職種と共同して、機能訓練指導員が、運動器機能向上計画書を作成します。計画書は、目標の設定など、予防通所介護計画(ケアプラン)との整合性が保たれる内容であることが重要です。
作成した計画書は、本人または家族にわかりやすく説明し、同意を得なくてはなりません。専門用語は使わず、誰にでもわかる言葉で説明しましょう。
利用者または、家族の同意を得て、はじめて運動器機能向上サービスの開始となります。目標の達成に向けて本人、家族、多職種が連携して実施していきます。
サービスの継続後は、1ヵ月ごとにモニタリングを行いましょう。短期目標の達成具合や、計画書が適正であるかチェックします。無理があると判断した場合は、3ヵ月を待たずに計画書の見直しが必要です。
また、長期目標期間の3ヵ月が経過したら、運動器機能計画書の評価を行います。利用者ごとの長期目標の達成状況、運動器機能の向上具合についてもアセスメントします。その内容をもとに「モニタリング報告書」を作成します。
なお、運動器機能向上サービスを行っているとともに、利用者の運動機能を定期的に記録していること、評価していることは、必須となっていますので、注意しましょう。
運動器機能向上加算とは、要支援1・2、または、要支援状態になる恐れのある方に対して、介護予防サービスを提供した場合に算定できる加算です。
なお、運動器機能向上加算は2024年度に基本報酬に包括化されることが、検討されています。運動器機能向上サービス提供が、加算要件ではなく、必須となった場合、必ず実施しなければならないサービスとして位置づけられます。その場合に備えて、内容を理解し、円滑に行える準備をしておく必要があります。
運動器機能向上サービス提供は、利用者の身体機能や運動器の状態を維持・改善するために必要なサービスです。実施するには、適切な情報集を行い、定期的なモニタリング、評価の記録を行って行かなければなりません。それぞれの利用者にあわせて個別にアプローチすることで、介護予防につながっていきます。さらには、利用者の望む暮らしの実現となるでしょう。