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身体拘束廃止未実施減算とは?対象行為や、減算の要件などを詳しく解説

2024-07-04

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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身体拘束は、介護や医療の現場で利用者の行動を制限する手段としておこわれる場合がありますが、その影響は非常に深刻です。

実際、身体拘束をおこなうことで、身体的・精神的などさまざまな面で悪影響があります。こうした問題を踏まえて、2024年度の介護報酬改定では身体拘束の廃止に向けた取り組みが強化されました。

今回は、身体拘束廃止未実施減算についてや、身体拘束がもたらす問題点やその影響、対象事業所や算定要件などについて詳しく解説します。

また、身体拘束が認められる場合の3要件や、身体拘束廃止未実施減算の具体的な対象行為についても紹介します。

この記事を読んで、身体拘束の問題点とその廃止の重要性を理解し、利用者の尊厳と安全を守るための取り組みに役立てていただければ幸いです。

ぜひ、最後までお読みください。

身体拘束廃止未実施減算とは

身体拘束廃止未実施減算は、不適正な身体拘束を防ぐための取り組みを怠ったときに適用される減算項目です。

2000年に介護保険法が施行されてから、身体拘束をゼロにするべく、介護施設向けに対して「身体拘束ゼロへの手引き」が2001年に作成されて以降、現在では介護分野だけでなく医療・保健分野等にも普及し、身体拘束ゼロへの取り組みは広がっています。

身体拘束がもたらす問題とは?

身体拘束をすることは、下記のように利用者にとって多くの問題があります。

身体的問題

身体拘束をおこなうと、利用者の活動量が減少するため、関節拘縮・筋力低下などの身体機能の低下、拘束されることにより局所が圧迫されて褥瘡ができるなどの外的弊害が生じます。

また、動けないことによって食欲が低下し、心肺機能低下や感染症への抵抗力が低下するという、内的弊害も合わせて生じます。

車椅子に縛っている場合などでは、その拘束から逃れるために無理な立ち上がりをしようとする転倒リスクや、ベッドで拘束している場合は、ベッドを乗り越えようとする転落のリスクがあります。

また、抑制具による窒息事故など、場合によっては重篤な事故を発生させる危険性があります。

精神的問題

利用者によっては、身体拘束をされる理由がわからない場合もあり、多大な精神的苦痛を与えるだけでなく、人間としての尊厳を侵害することにもつながります。

さらに、継続的な精神的苦痛を与えられると、不安・怒り・屈辱・あきらめなどの感情が出るだけでなく、認知力の進行やせん妄などを頻発させるリスクも増大します。

身体拘束による精神的問題は利用者本人だけでなく、拘束されている姿を見た家族にも精神的苦痛・混乱・罪悪感や後悔などの気持ちを生じさせる可能性があります。

社会的問題

身体拘束は利用者・家族だけでなく、看護・介護職員なども自分のケアに誇りが持てなくなることでの士気の低下や、身体拘束をおこなっている施設・事業所に対しても社会的な不信、偏見を引き起こします。

さらに、身体拘束によって利用者の心身機能が低下することで、QOLの低下や本来不要であった医療的処置を施す必要性が出てきてしまい、個人経済や、社会経済にも影響があります。

身体拘束はさまざま悪循環を生む

身体拘束をおこなうと、下記のようにさまざま悪循環を生むことを理解する必要があります。

  1. 身体拘束:安易な検討のもとの身体拘束
  2. 本人の精神的・身体的苦痛:尊厳を損ない、不安・怒り・屈辱・あきらめなどの精神的苦痛、拘束部位の疼痛等の身体的苦痛
  3. BPSD(認知症の行動・心理症状)の増悪:体力の衰えとともに認知症が進行し、BPSD(認知症の行動・心理症状)の増悪が発生
  4. 体力・生活機能の低下:関節拘縮、筋力低下、心肺機能低下
  5. 転倒などのリスク増大:身体拘束により、無理な立ち上がり、柵の乗り越えようとするため、重大事故を発生しやすくなる
  6. 更なる身体拘束:身体拘束が更なる身体拘束を生む結果になる

このように、安易な身体拘束は、二次的・三次的な障がいが生じ、その対応のために更に拘束を必要とする状況が生み出される危険性があることを理解しておく必要があります。

身体拘束禁止の対象となる行為

身体拘束廃止・防止の対象となる具体的な行為の例は下記です。

  1. 一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  3. 自分で降りられないように、ベッドを綱(サイドレール)で囲む。
  4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手装等をつける。
  6. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
  7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
  8. 脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る。
  10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
  11. 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

参考:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」

身体拘束を認める場合の3要件とは?

身体拘束は、利用者の行動をそれ以外の者が制限するため、基本的にはおこなうことは禁止されています。

しかし、介護保険指定基準上「当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するための緊急やむを得ない場合」には身体拘束が認められています。

この緊急やむを得ない場合とは、下記の3要件にすべて該当した場合です。

要件①切迫性

利用者または他人の生命、身体が危険にさらされる可能性が高いことを切迫性といいます。

切迫性と判断する場合は「身体拘束による利用者の日常生活への悪影響を考慮したうえでも、身体拘束が必要となる程度まで、生命または身体が危険にさらされる可能性が高いか」を確認する必要があります。

要件②非代替性

身体拘束など、その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないことを、非代替性といいます。

この非代替性の判断をおこなう場合は「いかなるときでも、まずは身体拘束をおこなわずに介護するすべての方法の可能性を検討し、利用者の生命または身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないこと」を組織で確認する必要があります。

また、拘束の方法自体も、利用者の状態像などに応じて最も制限の少ない方法によっておこなう必要があります。

要件③一時性

身体拘束などの行動制限が一時的なものであることを、一時性といいます。

一時性の判断を行う場合には「本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間」を想定する必要があり、期間としては長くても1ヵ月を上限としています。

身体拘束廃止未実施減算の対象事業所・単位数・算定要件は?

身体拘束廃止未実施減算の対象事業所・単位数・算定要件は下記です。

身体拘束廃止未実施減算の対象事業所

身体拘束廃止未実施減算の対象事業所は、介護分野・障がい分野によって下記にわかれます。

介護分野

(地域密着型)特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、(地域密着型)介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、短期入所生活介護、短期入所療養介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護

※短期入所生活介護、短期入所療養介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型介護については、令和7年3月31日までは経過措置に併い、適用されません。

障がい分野

  • 施設・居住系:
    障害者支援施設(施設入所支援のほか、障害者支援施設が行う各サービスを含む)、療養介護、障害児入所施設、共同生活援助、宿泊型自立訓練


  • 訪問・通所系:
    居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、生活介護、短期入所、自立訓練(宿泊型自立訓練を除く)、就労選択支援、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型、児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援(障害者支援施設が行う各サービスを除く)

身体拘束廃止未実施減算の減算単位

減算単位も下記のように介護分野・障がい分野によって異なります。

介護分野

介護サービス

減算単位

短期入所系サービス、多機能系サービス

所定単位数の100分の1
に相当する単位数を減算

障がい分野

障がいサービス

減算単位

短期入所系サービス、多機能系サービス

所定単位数の10%
に相当する単位数を減算

訪問・通所系サービス

所定単位数の1%
に相当する単位数を減算

身体拘束廃止未実施減算の算定要件

実際の身体拘束廃止未実施減算の算定要件は下記のようにわかれます。

介護分野

介護分野での、身体拘束廃止未実施減算の算定要件は下記です。

  • 以下の身体的拘束適正化措置が講じられていない場合
    1.身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録すること

    2.身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他従業者に周知徹底を図ること

    3.身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること

    4.介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること

  • 全ての施設・事業所で身体的拘束等の適正化が行われるよう、令和6年度中に小規模事業所等における取組事例を周知するほか、介護サービス情報公表システムに登録すべき事項に身体的拘束等の適正化に関する取組状況を追加する。
    また、指定権者に対して、集団指導等の機会等にて身体的拘束等の適正化の実施状況を把握し、未実施又は集団指導等に不参加の事業者に対する集中的な指導を行うなど、身体的拘束等の適正化に向けた取組の強化を求める。

参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」

障がい分野

障がい分野での、身体拘束廃止未実施減算の算定要件は下記です。
介護分野と同様に、以下の身体的拘束適正化措置が講じられていない場合に減算されます。

  1. やむを得ず身体拘束等を行う場合、その態様及び時間、利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録すること。
  2. 身体拘束適正化検討委員会を定期的に開催し、その結果について従業者に周知徹底を図ること。
  3. 身体拘束等の適正化のための指針を整備すること。
  4. 従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。

参考:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」

身体拘束廃止未実施減算未対象の事業所に対する義務規定とは?

2024年度の介護報酬改定では、介護サービスより「身体拘束廃止未実施減算による減算はないものの、身体的拘束等の原則禁止や、記録に関する規定を運営基準に記載する必要がある」と変更されました。

身体拘束廃止未実施減算の未対象の事業所

身体拘束廃止未実施減算による減算はないものの、身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定を運営基準に記載する必要がある介護サービスは下記です。

  • 訪問介護
  • 通所介護
  • 居宅介護支援
  • (介護予防)訪問入浴介護
  • (介護予防)訪問看護
  • (介護予防)訪問リハビリテーション
  • (介護予防)居宅療養管理指導
  • (介護予防)通所リハビリテーション
  • (介護予防)福祉用具貸与
  • (介護予防)特定福祉用具販売
  • 定期巡回・随時対応介護看護
  • 夜間対応型訪問介護
  • 地域密着型通所介護
  • (介護予防)認知症対応型通所介護

未対象事業所に対する義務規定内容

身体拘束廃止未実施減算の未対象の事業所は、運営規程に下記のような内容を記載する必要があります。

  • 利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないこと。
  • 身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならないこと。

参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」

身体拘束を最大限減らし、利用者の尊厳の保持と自立支援につなげよう

身体拘束は利用者に身体的・精神的・社会的にさまざまな影響を与えるため、基本的には廃止する方向への運営は重要です。

実際、身体拘束をおこなうことで、関節拘縮や筋力低下、褥瘡などの身体的問題を引き起こすだけでなく、精神的苦痛や認知症の悪化なども生じます。

また、利用者だけでなく、家族や介護職員にも精神的負担や士気の低下をもたらすなど多くの悪影響を与えます。

ただ、今回紹介したように、いかなる時も身体拘束を禁止しているのではなく、切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たす場合のみ可能です。

身体拘束を最大限減らすことは、利用者の尊厳保持と自立支援に直結します。
そのため、施設・事業所は、研修や指針の整備、委員会の開催を徹底して身体拘束を最大限減らし、利用者が安心して生活できる環境を提供して、QOLの向上を図りましょう。

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