ベースアップ等支援加算とは、介護職員の処遇改善を目的とした加算です。ベースアップ等支援加算が創設され、介護職員のベースアップ手当を検討する事業所も多いでしょう。今回は、ベースアップ等支援加算の概要と施設管理者が知っておくべきルールについて解説します。この記事を読むことで、算定に必要な条件や注意事項が理解できるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
目次
ベースアップ等支援加算は2024年度の介護報酬改定にて、処遇改善加算・特定処遇改善加算との一本化が行われる見通しです。一本化後の処遇改善加算については以下の記事で詳しく解説しているのでぜひ参考にしてください。
【2024年改定対応】介護職員等処遇改善加算とは?改定の影響や改定後の算定要件をわかりやすく解説!
なお、本記事では2023年度まで用いられていたベースアップ等支援加算について解説します。
ベースアップ等支援加算は、介護職員1人あたりの収入を3%程度(月額平均9,000円相当)引き上げることを目的に2022年10月に創設されました。ベースアップ等支援加算の仕組みは、2022年2月に創設されていた「処遇改善支援補助金」をもとに考えられています。処遇改善加算、特定処遇改善加算と並んで、介護職員の処遇改善に利用できる3つの加算のひとつです。
ベースアップとは、一律に基本給を引き上げることを指しています。例えば、定期昇給は勤続年数、資格手当は保有する資格、職務手当は役職などによって支給額が異なります。しかし、ベースアップは勤続年数や資格などに関係なく、すべての職員に対して適用される点が特徴です。
ベースアップを導入するタイミングとして、急激な物価上昇などにより相対的に給与が下がってしまった場合などが想定されます。2022年はコロナや外国で発生した戦争の影響で、急激に物価が上昇しました。政府が主導している「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の影響もあり、介護現場で働くスタッフの処遇改善を目的にベースアップ等支援加算が創設されました。
ベースアップ手当を支給するためには、ベースアップ等支援加算を算定する必要があります。ベースアップ等支援加算の算定要件は以下のとおりです。
【ベースアップ等支援加算の算定要件】
処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得している事業所(現行の処遇改善加算の対象サービス事業所)
賃上げ効果の継続に資するよう、加算額の3分の2は介護職員等のベースアップ等*¹に使用することを要件とする
*¹「基本給」又は「決まって毎月支払われる手当」の引上げ
引用:厚生労働省「介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の概要」
ベースアップ等支援加算は、処遇改善加算を取得している事業所が算定できる加算です。処遇改善加算を取得していない事業所では、ベースアップ等支援加算を算定できないので注意しましょう。
また、その他の処遇改善加算と異なる点として、毎月支給するベースアップとして利用すること、加算額の3分の2をベースアップに利用することが挙げられます。
処遇改善手当は事業所の判断で支給するタイミングを決められますが、ベースアップ手当は必ず毎月支給しなければいけません。また、処遇改善加算で受給した金額は全て介護職員へ支給しなければいけないのに対し、ベースアップ等支援加算は「加算額の3分の2をベースアップとして支給する」というルールになっています。介護職員の賃金向上を図る目的は同じですが、条件が異なる点もあるので注意しましょう。
ベースアップ等支援加算を取得するためには、処遇改善加算を算定しなければいけません。そのため、処遇改善加算に関する知識も理解しておく必要があるでしょう。処遇改善加算の算定要件について解説します。
処遇改善加算を算定するためには、キャリアパス要件と職場環境等要件を満たさなければいけません。キャリアパス要件と職場環境等要件は以下のとおりです。
【キャリアパス要件】
- 職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
- 資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること
- 経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
※就業規則等の明確な書面での整備・全ての福祉・介護職員への周知を含む
【職場環境等要件】
賃金改善を除く、職場環境等の改善。6つの項目(入植促進に向けた取り組み、資質の向上やキャリアアップに向けた支援、両立支援・多様な働き方の推進、腰痛を含む心身の健康管理、生産性向上のための業務改善の取組、やりがい・働きがいの構成)のうち1つ以上取り組んでいる
処遇改善加算は(Ⅰ)〜(Ⅲ)という3つの種類に分けられます。各処遇改善加算に必要なキャリアパス要件と職場環境等要件は以下のとおりです。
【各処遇改善加算の要件】
引用:厚生労働省「介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の概要」
ベースアップ等支援加算の単位数は、提供する介護サービスごとに異なります。各介護サービスの単位数は以下のとおりです。
事業所・サービス区分 | 加算率 |
訪問介護 | 2.4% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 1.1% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 1.0% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 | 1.5% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 2.3% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 | 1.7% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 2.3% |
介護福祉施設サービス | 1.6% |
介護保健施設サービス | 0.8% |
介護療養施設サービス | 0.5% |
引用:厚生労働省「介護職員処遇改善加算(令和5年3月1日老発0301第2号)」
ベースアップ等支援加算を算定するためには、処遇改善計画書と処遇改善報告書を1年に1回提出しなければいけません。処遇改善計画書と処遇改善報告書について解説します。
処遇改善計画書には、基本情報シートと様式2-1〜様式2-4があります。処遇改善加算を算定していない事業所が新たにベースアップ等支援加算を算定する場合、処遇改善加算から申請しなければいけないため、提出する書類は以下の3つです。
基本情報シートは、様式2に情報を転記するためのシートなので、提出する必要はありません。また、すでに処遇改善加算を算定している事業所は、様式2-1と様式2-4のみ作成します。
ベースアップ等支援加算や処遇改善加算を算定している事業所は、1年間の処遇改善加算の算定単位数と支給した処遇改善手当について処遇改善報告書を提出する必要があります。ベースアップ等支援加算を算定している事業所が、提出すべき書類は以下の3つです。
処遇改善実績報告書の提出期限は、各事業年度における最終の加算の支払いがあった翌々月の月末までです。仮に、前年4月から3月までの1年間で支給したベースアップ手当を報告する場合、提出期限は7月末までとなります。年度末のサービス提供から4ヶ月空くので、報告書の提出忘れに注意しましょう。
ベースアップ手当を支給するうえで施設管理者が知っておくべきルールは以下の6つです。
ベースアップ等支援加算は、処遇改善加算・特定処遇改善加算と同じように介護職員の処遇を改善するための加算です。すでに処遇改善加算を算定している事業所であれば、すぐに取得しやすいので積極的に算定するとよいでしょう。
ベースアップ等支援加算を算定する事業所は、利用者の同意、加算額3分の1の使い道、支給対象者に関して注意しなければいけません。ベースアップ等支援加算を算定する事業所が注意すべき点について解説します。
新たにベースアップ等支援加算を算定する場合、利用者が支払う利用料金も変動するため、利用者から同意を得なければいけません。処遇改善加算の同意だけでは不十分なので、注意しましょう。
ベースアップ等支援加算では、「加算額3分の2は介護職員のベースアップに使う」という要件が含まれています。残った加算額3分の1の使い道に関して、疑問を持つ方もいるかもしれません。
残りの加算額3分の1に関しても、介護職員の処遇改善に使わなければいけません。賃金改善の額が補助金の合計額を上回らなければいけないため、3分の1の加算額は賞与や一時金として支給する必要があります。事業所が自由に使えるお金ではないので注意しましょう。
ベースアップ手当の支給対象者は、各事業所の判断で柔軟に対応できます。原則としてベースアップ手当の支給対象は介護職員です。しかし、介護職員以外でも、実務として利用者さんと直接関わる機会が多い業種に関してもベースアップ手当を支給できます。
例えば、生活相談員として配置されている職員でも、実際には現場で直接介護サービスを提供する機会が多い場合もあるでしょう。この場合、配置上は介護職員ではありませんが、実務として介護サービスを提供しているので、事業所判断で支給対象とすることもあります。
今回は、ベースアップ手当に関する概要と施設管理者が理解しておくべきルールについて解説しました。
ベースアップ手当は、一時的な手当や昇給制度などではなく、全ての介護職員の基本給を引き上げることを目的とした手当です。ベースアップ等支援加算を取得するためには、処遇改善加算を算定する必要があります。
ベースアップ等支援加算を算定する際には、計画書と報告書を提出しなければいけません。ベースアップ手当を導入する施設の管理者は、支給するタイミングや支給額などの細かいルールに注意しましょう。