2021年度の介護報酬の改訂によって、かつて栄養スクリーニング加算とよばれていたものが口腔・栄養スクリーニング加算に改訂され、栄養状態だけでなく、口腔機能の維持・向上のための支援を行った場合に加算を算定できるようになりました。
この記事では、口腔・栄養スクリーニング加算の算定要件、加算単位数、加算を行う際の手順や注意点について解説します。
目次
口腔・栄養スクリーニング加算とは、2021年3月に廃止された栄養スクリーニング加算に口腔の健康状態のチェックが要件として加わった加算です。
田中友規らの研究によると、口腔機能の低下と将来的な身体的衰弱の可能性や死亡率の増加には高い関連があることが明らかになっています。
そのため、利用者の口腔機能の低下を早い段階で発見して、適切な支援を行うことで口腔機能の低下の重症化などの予防、維持、回復につながるほか、身体機能の低下や病気を防ぐことを目的としています。
通所サービスの口腔・栄養スクリーニング加算は、IとⅡの2種類があります。算定要件と加算単位についてそれぞれについて紹介します。
口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)を算定するには、以下の2つの要件を満たさなければいけません。
- サービス利用開始時および利用中の6か月ごとに、利用者の口腔の健康状態と栄養状態についてスクリーニングを行い、ケアマネージャーにその結果を情報提供していること
- 算定日がある月が、次の基準のどれにも当てはまらないこと
- a.栄養アセスメント加算を加算している
- b.利用者が栄養改善加算の算定のため栄養改善サービスを受けている間である
- c.栄養改善サービスが終了した日がある月
- d.利用者が口腔機能向上加算の算定のため口腔機能向上サービスを受けている間である
- e.口腔機能向上サービスが終了した日がある月
1・2の要件をすべて満たすと、1回につき20単位を加算することができます。
口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ)を算定するには、以下の4つの要件を満たさなければいけません。
- サービス利用開始時および利用中の6ヵ月ごとに、利用者の口腔の健康状態か栄養状態についてスクリーニングを行い、ケアマネージャーにその結果を情報提供していること
- 通所介護費等算定方法第一号、第二号、第六号、第十一号、第十六号及び第二十号に規定する基準のいずれにも該当しないこと
- 算定日がある月が、栄養アセスメント加算を算定している、利用者が栄養改善加算の算定のため口腔機能向上サービスを受けている間である、栄養改善サービスが終了した日がある、のいずれかに当てはまる
- 算定日のある月が、利用者が口腔機能向上加算の算定のための口腔機能向上サービスを受けている間、口腔機能向上サービスが終了した日があるのいずれかに当てはまる
1~4のすべてを満たすと、1回につき5単位を加算することができます。
通所サービスにおける口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)と(Ⅱ)、居宅サービスの口腔栄養スクリーニング加算の違いを表でまとめました。ご参照ください。
通所介護サービス | 居宅サービス | ||
口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ) | 口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ) | 口腔・栄養スクリーニング加算 | |
算定要件*¹ | 1と2の両方を満たす*² | 1と2のどちらかを満たす*³ | 1と2の両方を満たす |
単位数 | 20単位/回 | 5単位/回 | 20単位/回 |
対象サービス |
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*¹:
算定要件1:利用開始時及び6ヵ月ごとに利用者の口腔の健康状態について確認を行い、口腔の健康状態に関する情報をケアマネージャーに提供する
算定要件2:利用開始時および利用者の栄養状態について確認を行い、栄養状態に関する情報をケアマネージャーに提供する
*²:栄養アセスメント加算、栄養改善加算、口腔機能向上加算を算定している場合は併算できない
*³:栄養アセスメント加算、栄養改善加算、口腔機能向上加算を算定している+栄養スクリーニング加算(Ⅰ)を算定できないときに加算可能
口腔・栄養スクリーニング加算を算定する手順について紹介します。
口腔・栄養スクリーニング加算を算定するためには、介護職員などがサービス利用者の利用開始時、または事業所での加算の算定開始時に厚労省の示す口腔・栄養スクリーニング様式を用いるなどしてスクリーニングを行わなければなりません。
様式を使用しない場合でも、効果的・効率的なスクリーニングを実施するために、口腔・栄養スクリーニングの手順を定めて一体的に実施できるようにする必要があります。改善すべき課題を整理・分析して実施体制の継続的な見直しを行いましょう。
厚生労働省の様式にある口腔・栄養スクリーニングでは以下の項目を評価します。
スクリーニング項目 | |
口腔 |
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栄養 |
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スクリーニング実施後はその結果を利用者を担当している介護支援専門員に文書などで情報提供をします。報告にも、厚労省の様式を用いると行いやすいでしょう。
口腔内の健康状態が低下している可能性のある利用者や低栄養状態の利用者には、かかりつけ医、かかりつけ歯科医への受診状況を利用者やその家族に確認し、利用者を担当するケアマネージャーを通じて、医療機関の受診や必要なサービスを提供しましょう。
口腔・栄養スクリーニングは、1回限りではなく継続して行う必要があります。実施体制を見直しながら、6ヵ月ごとにスクリーニングを実施します。前回の結果と合わせてケアマネージャーに情報を提供して、利用者の状況の推移を把握します。このような継続実施によって、利用者の口腔の健康・栄養状態が維持、向上されていくでしょう。
口腔・栄養スクリーニング加算を算定する際には以下のポイントについて注意する必要があります。
口腔・栄養スクリーニング加算の算定の際は、ケアプランが変更になる可能性があるため、利用者本人や家族からの同意を得ることが必要です。サービス担当者会議などで必要性を提案しましょう。
利用者が複数の介護事業所を利用している場合、重複して算定はできません。利用者や家族の意向も踏まえ、どこの事業所でスクリーニング実施・評価をするのかについてサービス担当者会議で決定し、事業所間で共有しておかなければなりません。
サービス担当者会議において、栄養改善サービスや口腔機能向上サービスが必要だとケアマネージャーが判断すると、ケアプランに組み込まれます。
口腔・栄養スクリーニング加算を算定する際には、必ず口腔・栄養スクリーニング様式が必要となります。スクリーニングを実施する際、ケアマネージャーに情報を提供する際にも役立ちます。実地指導や監査の時にも、証明が出来ないので、利用者それぞれの記録を残しておきましょう。
口腔・栄養スクリーニング加算を通じて、口腔機能や栄養状態を維持・向上させることは利用者の心と体の健康を保ち、尊厳を守るためにも重要な取り組みです。
また、口腔・栄養スクリーニング加算は利用者ごとに算定できます。収益アップに繋がるほか、サービスの質が向上することが期待できます。口腔・栄養スクリーニング加算の算定を行う事業所では、算定要件をよく確認した上で算定を行いましょう。