訪問介護事業所は介護保険法のもとに指定を受けます。
定められた指定基準やルールを守らないと行政処分を受けてしまいます。
悪質なものや分かっていてルールを破っていると指定取り消しという処分を受けることになります。
今回は、訪問介護における指定取り消し・指定効力の停止とはなにか、指定取り消し・指定の効力停止の要件、指定取り消し・指定の効力停止を受けるとどうなるのかなどについて詳しく解説します。
目次
訪問介護事業所が受ける行政処分には、指定取り消しと指定の効力停止があります。
それぞれについて解説します。
指定取り消しとは、訪問介護事業所として受けた指定が取り消されることを言います。
指定が取り消される場合、訪問介護事業所を閉鎖しなければなりません。
この行政処分を受けると、訪問介護を行うためには新たに指定の申請が必要になります。
指定の効力停止は、指定が取り消されるわけではないものの、行政により指定された部分の効力が停止することになります。
どのような効力が停止になるかにもよりますが、指定が取り消されるわけではないので、訪問介護の指定は継続となり事業所としては運営を続けることが可能です。
指定の効力が全部停止になると、効力停止期間中は介護報酬を受けられなくなります。
利用者にヘルパーを派遣しても報酬がないので、事業所を続けることはできなくなります。さらに、利用者の受け入れ先を探して、サービスを引き続き受けられるようにする必要もあります。
効力停止期間が終了しても、事業の継続は難しいかもしれません。
指定の効力が一部停止の場合、事業を続けることが可能な場合があります。
例えば、停止されている効力が「新規の利用者受け入れ」の場合、現在の利用者への訪問は継続できます。
指定取り消し・指定の効力停止の要件を下記の表にまとめました。
内容 | |
1号 | 介護事業者(法人役員なども含む)が罰金刑を受ける |
2号 | 介護事業者が指定を受ける条件に違反した |
3号 | 介護保険法で定められている人員基準を満たせなくなった |
4号 | 設備・運営基準を満たせなくなった |
5号 | 利用者の人格を尊重することと命令遵守などの義務に違反した |
6号 | 不正な請求をした |
7号 | 介護報酬の支給の際の調査に協力しない |
8号 | 7号と同じ |
9号 | 介護事業者としての指定を受けたときに不正な手段を使った |
10号 | 介護保険法及び関連法令に違反した |
11号 | 不正または著しく不当な行為をした |
12号 | 役員などに過去5年間のうちに不正や著しく不当なことをした者がいる(法人の場合) |
13号 | 事業所の管理者が過去5年間のうちに不正や著しく不当なことをした(法人でない場合) |
参考:厚生労働省
指定取り消しや指定の効力停止になるまでには、一連の流れがあります。
流れを詳しく解説します。
運営指導指定権者によりますが、多くの場合は数年に一度、運営指導があります。
訪問介護事業所に事前に通達があり、運営指導の日時が決定します。
運営指導では各種書類の確認や運営基準、人員基準、設備基準が満たされているかどうかを確認します。
運営指導で、不正な点が見つかると運営指導から監査に変更になります。
運営指導から監査に切り替わることもありますが、指定権者が訪問介護事業所が不正をしている情報を持っている場合は、予告なく行政職員が訪問し監査が実施されることもあります。
予告なく監査が行われる状況としては、内部通告、利用者からの情報のリークなどで、訪問介護事業所が不正をしているという情報を行政側が得ることで監査が行われることがあります。
監査が行われた結果、改善勧告が出されます。
改善勧告に従わない場合、弁明の機会が与えられます。
それでも改善が見られない場合は、改善命令が出されます。
指定された期間内に勧告や命令された点を改善し、改善した証拠を提出します。
改善されたと判断された場合は、指定取り消しや指定の効力停止を受けることはありません。
改善勧告や改善命令が出されているにも関わらず改善しない場合は、指定効力の停止や指定取り消しとなります。
改善勧告や改善命令をしっかり受け止めて、改善することで指定取り消しや指定効力の停止を受けることを避けることができます。
指定取り消しや指定効力の停止を受けると訪問介護事業所としては難しい状況に立たされます。
どのような影響があるのか見てみましょう。
指定効力の停止の場合、全部の効力が停止になると介護報酬の請求ができなくなります。
これは、訪問介護サービスを提供しても収入が得られなくなることを意味します。
事実上、サービスの提供はできなくなり、事業所の収入もなくなるため事業所の運営は難しくなります。
それだけではなく、いま受け入れている利用者が適切なサービスを継続できるように、他の訪問介助事業所へサービスを依頼しなければならない状況になります。
効力の停止期間が終了しても、すぐに以前のように利用者が増えるわけではないので、事業所を以前のように運営するのは難しいと言えるでしょう。
効力が全部停止になった場合、事業所の継続は非常に厳しいと言えます。
指定効力が一部停止になり、新規の受け入れが停止の場合、停止期間中に新規の利用者の受け入れができなくなります。
ただし、現在の利用者へのサービスの提供は継続できるので、収入がなくなるわけではありません。
指定効力の一部停止の期間を乗り越えることができれば、訪問介護事業所の運営は継続できる可能性は高くなります。
指定取り消しを受けると、5年間新たな指定を受けられなくなります。
これには、業務を執行する社員、取締役、執行役やそれに準ずる者も含まれます。
法人の役員としてリストに載っていなくても、実質的に共同経営者なども対象になります。
以前は指定取り消しになっても、事業所名を変えて新たに指定を受ける事業所がありましたが、現在はそうしたことができないようになっています。
指定取り消しになると、指定の更新もできなくなります。
さらに、指定取り消しには連座制が適用されます。
つまり、法人内でいくつもの指定を受けていると、他の事業も更新を受けられなくなります。
指定取り消しの理由が不正請求の場合、不正に請求した介護報酬を返還しなければなりません。
不正請求期間にもよりますが長く不正請求していた場合、最高で5年分を返還しなければなりません。
さらに加算金を請求されるケースもあります。
ここからは実際に指定取り消しや指定効力の停止を受けた事例を3つほど見てみましょう。
事例1:ケアマネージャーの資格を持つ法人代表者がその立場を利用して、利用者12名に対し2年間にわたってサービスの提供を行っていないのに、行ったかに装って介護報酬を不正に請求し受領した。
また、不正を隠ぺいするために、書類の情報を書き換えて証拠書類の処分を図った。
この事業所には、指定取り消しの処分と加算金を含む5,965,971円の返還が命じられた。
事例2:運営指導でサービス提供の記録がない請求を過誤調整するよう指導を受けた。
改善報告を行うときに全利用者に対して自主点検をするよう指示されていたにも関わらず、複数の利用者の過誤調整を報告しなかった。
サービスを断られた記録があるにも関わらず、その分の報酬を請求し受領した。
サービス提供実績の記録がないのに介護報酬を請求し受領した。
同じ時間帯に一人のベルバーが複数の利用者にサービスを提供したことになっており、サービス提供者が不明にも関わらず報酬を請求し受領した。
身体介護にはサービス提供後に再び訪問する場合には、2時間以上の間隔を開けるという2時間ルールがあるが、2時間ルールを無視してサービスを提供したが、時間を合算せずに報酬を請求して受領した。
身体介護のサービス提供する時間に満たないサービスを請求し報酬を受領した。
この事業所には、指定効力の全部停止を3ヶ月の処分と返還金464,032円の返還が命じられた。
事例3 利用者20名について2年9ヶ月の間、サービスの提供をしていないにもかからわず、サービスを提供したように見せかけて、介護報酬を請求し受領した。
この事業所は、指定取り消しと加算金を含む48,239,048円の返還が命じられた。
令和2年の指定取り消しは訪問介護が最多でした。
訪問介護を運営していくうえで、指定取り消しなどの行政処分を受けないよう十分に注意する必要があります。
ここからは訪問介護を運営していくために、どのような点に気をつければ指定取り消しや指定の効力停止を避けられるかを見てみましょう。
指定取り消しの理由で一番多いのは、不正請求です。
訪問介護も気をつけていないと、知らないうちに事務処理ミスで不正請求を行ってしまうことは十分にあり得ます。
普段から記録をしっかりチェックして正しく請求するように心がけるなら、不正請求を恐れる必要はないでしょう。
運営指導があると通知を受けると意図的に不正をしているわけではないのに、指定取り消しや指定効力の停止が頭をよぎり、不安になるかもしれません。
指定取り消しや指定効力の停止を受けないために、どんなことに気をつけたら良いでしょうか。
ポイントを見てみましょう。
訪問介護事業所を運営するには、押さえるべき指定基準、設備基準、人員基準があります。基準をしっかり理解して守ることは大切です。
例えば、サービス提供責任者は必要な人数で勤務しているか、人員配置が常勤換算で2.5人以上になっているか、サービス提供責任者は資格を満たしているかなどがあります。
さらに、訪問介護では、基本的なサービスである生活援助や身体介護があります。
生活援助に何が含まれるか、身体介護に何が含まれるかが決まっています。
こうした基準を理解して事業所を経営していきましょう。
基準は数年に一度の介護報酬改定で変更される場合があります。
介護報酬改定で変更される点も理解していく必要があるでしょう。
運営指導の通知には、何を確認するか明確に記載した書類が含まれています。
指定されている書類をそろえましょう。
行政処分を受ける理由の第一位は不正請求だったので、請求に関する書類をしっかりと見直すことも大切です。
訪問の記録とサービス提供票の記録は一致しているか、記録通り請求がされているかを確認できます。
訪問介護計画書は作成され利用者や家族のサインと押印がなされているか、訪問介護計画書の認定期間は切れていないか、対応する居宅介護計画書はそろっているか、訪問の記録に記載されているサービス内容と訪問介護計画書に書かれているサービス内容は一致しているか、そうした点をしっかり確認することも大切です。
運営指導は訪問介護事業所を教育・指導するために実施されます。
運営指導後には、行政より指導された点が文書で届きます。
指定された期間内に改善できた点や改善のために行ったことを報告しましょう。
指導された点はその時だけ改善するのではなく、その後も改善を継続する必要があります。次の運営指導の時には担当者が代わっても、前回の指導内容や改善報告が参照されます。
運営指導の時に改善が継続されているかどうか確認するため、一時的な改善ではなく継続した改善を行うことが大切です。
請求の記録を確認し不備が見つかった場合は、運営指導のときに自ら申告して必要な返還を行うことで、悪質なものではなく事務処理上のミスであったことを伝えることができます。間違っても隠そうとして書類を改ざんしたり、証拠を隠ぺいしないようにしましょう。
訪問介護で指定取り消しになるのはどのような流れか解説しました。
運営指導前に書類をしっかり確認することが大切です。
もし不備が見つかった場合は、自ら申告することで重い行政処分を受けないようにできます。
制度を理解して正しく運営することで指定取り消しや指定の効力停止を避けることができるでしょう。