この記事では、 訪問介護や通所介護の小規模M&Aの事例についてご紹介をします。
訪問介護や通所介護では資産と呼べるものがあまりなく『自事業所に価値がつかない。』『自事業所を価値を知らない。』経営者の方が多くいらっしゃいます。
これまで介護業界では、業界大手以外M&Aという手段は活用されていませんでした。中小事業者においては『会社を買う(売る)』『事業所を買う(売る)』という選択肢はあまり選ばれず個人間での譲渡、『利用者と職員を他事業所に口利きをして振る』という方法が選ばれてきました。
これは一見良い様に思えますが、多くのことが個人で調べられる時代となったため、昨今では専門家の立ち会わない譲渡(口約束)に『取り決め不足が多い』ことが原因によるトラブルが増加し、問題にもなっています。
そのため事業所と利用者、経営者と従業員で契約が結ばれていることと同様に事業の引継ぎにおいても書面による契約取り交わしが必要として見られてきており、M&Aが増えてきているのが現状です。またそれに伴いM&Aの仲介会社が増加してきています。
介護業界は全産業の中で圧倒的に新規・有効求人数が多く、3.6社に対し1人の求職者しかいない状況です。
全産業を見ても有効求人倍率は1%台にとどまっており、失業率を上回る介護サービスの3%代は異常とも言え、特に居宅系サービスの求職者に絞ればより求人倍率は高くなり、また2040年に向けては現役世代の減少も課題となっており、今後も人材不足が解消される見込みは立っていません。
そんな中、訪問介護、通所介護のような小規模の事業所においても、人手確保のために行われるM&Aが増えてきています。赤字の場合や資産がなくとも継続して勤務してもらえる従業員や利用者が初めからいる状態がのれん代として価値が付きます。その多くは人材紹介で従業員を採用した時に掛かる費用と比較され、譲渡対価が数百万円程度のM&Aも数多く行われています。
そのような背景から身近な事業所で行われている、売手は価値が付くと思っていなかったM&Aの事例についてご紹介します。
売手事業者:通所介護事業
従業員:8名 売上:150万円(単月) 原価:250万円(単月)
利益:△100万円 借入なし
売却希望額:なし
家族経営で同地域に対して事業で還元したいという思いで始めた通所介護事業。代表が管理者を兼任しており、請求や営業、総務に関してすべてとりまとめていた。コロナによって体調を崩してしまい仕事に関われない状態になってしまった。
家族は別の事業を行いつつ介護職として勤務していたものの管理者の業務は一切引き継ぎができないままで半年がたった。請求業務や従業員の給与計算などは何とか行い耐え忍ぶことが出来たが営業活動が一切ストップ。新規もこなくなり、売上は減少。毎月100万円程度の赤字を出すこととなってしまっていた。廃業の検討と並行して、利用者と従業員をどうすればよいかと譲渡に関しては赤字であるため希望する額も特にない状態で仲介会社への相談へと至る。
買手事業者:通所介護、訪問看護他
当該のエリアに拠点はないものの土地勘はあり、売手家族との面談後、売手の代表が持っていた同地域に対して事業を還元したいという思いが買手代表の思いと一致。従業員の継続雇用も見込め、地域特性からも早期回収が見込めること、引き継ぎに要する期間分の赤字を補填する意味を込め200万円にて譲受することを決意。
譲渡に際し従業員の退職もリスクとしてあったが、売手事業者と協力し合い周知、売手から条件であった、現勤務条件維持した内容の雇用契約のまき直しを行い、譲渡日を迎えるまでの間に既存の拠点との従業員の交流研修も行いスムーズ引き継ぎが完了。
介護職員の採用単価は週1の非常勤に何万何十万というような事業所もあり。200万円で8人採用できたと思えばどうでしょうか。利用者の継続した利用も見込むことができるM&Aについては大手企業だけの戦略ではなく中小企業においても取り組まなくてはならなくなってきています。人材紹介と同様にまずは希望条件を完全成功報酬の仲介会社に伝えておくだけでもしておくことは選択肢としてはアリなのかもしれません。
また譲渡を検討される場合、まずは自事業所の価値を正しく把握し、その価値を理解してもらえる買手・正しく伝えらえれる介護業界を理解した仲介会社を見つけることも大切になります。