近年、介護保険制度では、利用者の機能向上や自立支援を促進する自立支援介護の方針を強化しています。生活機能向上連携加算も、そのための加算のひとつです。
理学療法士などの専門職と連携し、利用者が可能な限り自立した生活を送れるよう目指しています。リハビリテーションの観点から、介護サービス事業所によるケアの質を高め、利用者の自立を促す。そのような目的を持った加算である、生活機能向上連携加算について解説します。
目次
生活機能向上連携加算は、介護サービスの質を高めるために導入された加算です。リハビリ専門職と連携し、利用者の生活機能向上や自立支援を促すことを目的としています。
具体的には、利用者のADL(基本的生活動作)やIADL(手段的生活動作)の改善に焦点を当て、介護サービスの提供を通して生活の質の向上をめざします。リハビリ専門職と介護サービス事業所のスタッフが協力し、自立支援の観点から利用者ごとに計画を立て、評価をしつつ、継続的なケアを提供します。
生活機能向上連携加算はもともと訪問介護から導入されたものでした。現在ではデイサービスなど、他の介護サービスにも拡大しています。これは、政府の方針が影響しています。「地域包括ケアシステムの推進」、「自立支援・重度化防止の取組の推進」、「介護人材の確保・介護現場の革新」、「制度の安定性・持続可能性の確保」という5つの大きな柱が介護保険制度の目指す方向性を示しています。
2018年の報酬改定により、訪問介護以外の事業所でも生活機能向上連携加算が算定できるようになりました。リハビリ専門職の協力のもと、利用者の生活機能を向上するための体制整備が進みました。
生活機能向上連携加算を算定できる介護保険サービスには、以下のものがあります。
- 訪問介護
- 通所介護(デイサービス)
- 地域密着型通所介護
- 認知症対応型通所介護
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 特定施設入居者生活介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 介護老人福祉施設
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- 小規模多機能型居宅介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 認知症対応型共同生活介護
多くのサービスで算定できるようになった生活機能向上連携加算。ただ、訪問看護や訪問・通所リハビリなど、医療系サービスと呼ばれるサービス群は対象外です。小規模多機能では算定できますが、看護小規模多機能は対象外になるなど、サービス種別による算定可否には注意が必要です。
2021年度のデータによると、生活機能向上連携加算の算定率は全体で3.1%となっており、算定率は極めて低い状況です。
この状況を受け、通所系サービス・短期入所系サービス・居住系サービス・施設サービスに関して、ICTの活用による要件緩和が追加されました。リハビリ専門職が事業所や利用者宅を訪問せずに、利用者の状態を把握し、オンラインで助言や指導をおこなえる新しい区分が加わりました。リハビリ専門職の負担が緩和されることにより、算定率の拡大に期待が集まります。
生活機能向上連携加算の単位数と算定要件について解説します。
生活機能向上連携加算は2種類あり、単位数は全てのサービスで共通しています。
- 生活機能向上連携加算(Ⅰ):100単位/月
- 生活機能向上連携加算(Ⅱ):200単位/月
ただし、算定要件についてはサービス種別ごとに異なります。次の章からはサービス種別ごとに生活機能向上連携加算の算定要件を解説します。
まず通所介護における生活機能向上連携加算の算定要件を解説します。
通所介護が生活機能向上連携加算(Ⅰ)を算定するための主な要件は以下の通りです。
- 訪問・通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療機関※のリハビリ専門職や医師からの助言(アセスメント・カンファレンス)を受けることができる体制を構築する。
- 助言を受けた上で、機能訓練指導員などが生活機能の向上を目的とした個別機能訓練計画を作成する。
- リハビリ専門職や医師は、通所リハビリテーションなどのサービス提供の場又はICTを活用した動画などにより、利用者の状態を把握した上で、助言をおこなう。
- 個別機能訓練計画の進捗状況を3ヵ月に1回以上評価し、利用者・家族へ説明する。必要に応じて訓練内容の見直しをおこなう。
- 3ヵ月に1回を限度に算定可能
- (Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定不可
※病院は、許可病床数200床未満のもの又は当該病院を中心とした半径4キロメートル以内に診療所が存在しないものに限る(他の区分も共通)。
生活機能向上連携加算(Ⅱ)に関する算定要件は、以下の通りです。
- 訪問・通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療機関のリハビリ専門職や医師からの助言(アセスメント・カンファレンス)を受けることができる体制を構築する。
- 助言を受けた上で、機能訓練指導員などが生活機能の向上を目的とした個別機能訓練計画を作成する。
- リハビリ専門職は、通所介護事業所を訪問し、機能訓練指導員などと共同して、利用者の身体状況の評価、個別機能訓練計画を作成する。
- 個別機能訓練計画の進捗状況を3ヵ月に1回以上評価し、利用者・家族へ説明する。必要に応じて訓練内容の見直しをおこなう。
- (Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定不可
続いて訪問介護での生活機能向上連携加算の算定要件を解説します。
訪問介護において生活機能向上連携加算(Ⅰ)を算定するための要件は次の通りです。
- 訪問・通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療機関のリハビリ専門職や医師からの助言(アセスメント・カンファレンス)を受けることができる体制を構築する。
- 助言を受けた上で、サービス提供責任者が生活機能の向上を目的とした訪問介護計画を作成する。
- リハビリ専門職は、通所リハビリテーションなどのサービス提供の場又はICTを活用した動画などにより、利用者の状態を把握した上で、助言をおこなう。
- 訪問介護計画の進捗状況を3ヵ月に1回以上評価し、利用者・家族へ説明する。必要に応じて訓練内容の見直しをおこなう。
- 3ヵ月に1回を限度に算定可能
- (Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定不可
生活機能向上連携加算(Ⅱ)における訪問介護の算定要件は以下の通りです。
- 訪問・通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療機関のリハビリ専門職や医師からの助言(アセスメント・カンファレンス)を受けることができる体制を構築する。
- 助言を受けた上で、機能訓練指導員などが生活機能の向上を目的とした訪問介護計画を作成する。
- リハビリ専門職が利用者宅を訪問する際にサービス提供責任者が同行する、またはリハビリ専門職とサービス提供責任者が利用者の居宅を訪問した後に共同してカンファレンスをおこない、生活機能アセスメントをおこなっていること。
- 訪問介護計画の進捗状況を3ヵ月に1回以上評価し、利用者・家族へ説明する。必要に応じて訓練内容の見直しをおこなう。
- (Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定不可
通所介護・訪問介護以外の施設・サービス事業所でも生活機能向上連携加算は算定可能です。利用者がその施設でリハビリテーションを受けながら、外部のリハビリ専門職と連携しながら生活機能向上を目指します。
以下の事業所が、生活機能向上連携加算の単位数はサービス種別に関係なくすべて同一です。
事業所 | 単位数 |
グループホーム | 生活機能向上連携加算(Ⅰ):100単位/月 生活機能向上連携加算(Ⅱ):200単位/月 |
短期入所生活介護(ショートステイ) | |
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | |
小規模多機能型居宅介護 |
- 訪問・通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療機関のリハビリ専門職や医師からの助言(アセスメント・カンファレンス)を受けることができる体制を構築する。
- 助言を受けた上で、機能訓練指導員などが生活機能の向上を目的とした計画を作成する。
- リハビリ専門職は、通所リハビリテーションなどのサービス提供の場又はICTを活用した動画などにより、利用者の状態を把握した上で、助言をおこなう。
- 個別機能訓練計画の進捗状況を3ヵ月に1回以上評価し、利用者・家族へ説明する。必要に応じて訓練内容の見直しをおこなう。
- 3ヵ月に1回を限度に算定可能
- (Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定不可
- 訪問・通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療機関のリハビリ専門職や医師からの助言(アセスメント・カンファレンス)を受けることができる体制を構築する。
- 助言を受けた上で、機能訓練指導員などが生活機能の向上を目的とした個別機能訓練計画を作成する。
- リハビリ専門職は、施設やサービス事業所を訪問し、機能訓練指導員などと共同して、利用者の身体状況の評価、個別機能訓練計画を作成する。
- 個別機能訓練計画の進捗状況を3ヵ月に1回以上評価し、利用者・家族へ説明する。必要に応じて訓練内容の見直しをおこなう。
- (Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定不可
生活機能向上連携加算(Ⅰ)は、ICTの活用によって算定が可能です。ビデオ通話や動画の共有などのICTツールを使用することで、リハビリ専門職が施設を訪問せずに利用者の状態をリアルタイムで把握し、必要な助言を提供することができます。
ICTの活用により、双方の業務効率化と連携が実現でき、利用者の生活機能を向上するための計画が進むよう支援されています。
生活機能向上連携加算を算定する際に注意すべきポイントを2つ解説します。
生活機能向上連携加算を算定するには、利用者個別に作成された計画書が必要です。計画書の名称はサービス種別によって異なりますが、いずれも利用者の生活機能向上を目指した訓練計画であることが必要です。
また、計画は3カ月ごとに見直しすることが必要です。リハビリ専門職や利用者・利用者家族などと評価内容を共有し、現在の状態に合わせた適切な内容に見直します。利用者の状態は外的要因・内的要因など、様々な要因によって変化します。それらの変化に対応し、支援の質を高めることが求められます。
生活機能向上連携加算では、区分(Ⅰ)と(Ⅱ)の併算定が認められていません。算定できるのは(Ⅰ)と(Ⅱ)のどちらか一方となります。
また、個別機能訓練加算を算定している場合、生活機能向上連携加算(Ⅱ)は200単位ではなく、100単位となります。間違いやすい項目ですので注意しましょう。
生活機能向上連携加算に関する2つの質問を厚生労働省のQ&Aを元に解説します。
指定通所介護事業所は、生活機能向上連携加算に係る業務について指定訪問リハビリテーション事業所、指定通所リハビリテーション事業所又は医療提供施設と委託契約を締結し、業務に必要な費用を指定訪問リハビリテーション事業所等に支払うことになると考えてよいか。
はい。なお、委託料についてはそれぞれの合議により適切に設定する必要がある。
生活機能向上連携加算を取得するには外部のリハビリ専門職の協力が必要です。しかし、介護報酬が算定できるのは、利用者と接するサービス事業所・施設のみ。リハビリ専門職を派遣(もしくはICT活用で遠隔指導)するリハビリテーション事業所などには介護保険上の報酬はありません。
そのため、加算を取得する事業所側がリハビリテーション事業所と委託契約をおこない、必要な費用を委託料として支払うこととしています。委託料はそれぞれの合議により設定されます。
生活機能向上連携加算は、同一法人の指定訪問リハビリテーション事業所若しくは指定通所リハビリテーション事業所又はリハビリテーションを実施している医療提供施設(原則として許可病床数200床未満のものに限る。)と連携する場合も算定できるものと考えてよいか。
はい。なお、連携先について、地域包括ケアシステムの推進に向けた在宅医療の主たる担い手として想定されている200床未満の医療提供施設に原則として限っている趣旨や、リハビリテーション専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)の有効活用、地域との連携の促進の観点から、別法人からの連携の求めがあった場合には、積極的に応じるべきである。
別法人だけでなく、同一法人の別事業所との連携であっても生活機能向上連携加算は算定が可能です。ただし、リハビリ専門職の有効活用や地域との連携促進の観点から、同一法人内のみではなく、別法人との連携にも応じるべきとしています。
生活機能向上連携加算は、利用者の生活機能の維持・向上を支援するために設けられた制度で、自立支援を促進します。各サービス事業所はリハビリ専門職と連携し、利用者の生活機能向上を目指し、質の高い介護サービスを提供することができます。
生活機能向上連携加算を算定するためには、算定要件と注意点をよく理解し、適切に運用することが重要です。