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サービス提供責任者

【特定事業所加算】指示・報告の算定要件を効率的に満たすための方法は?様式の例や注意点を解説

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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訪問介護事業所の特定事業所加算では、サービス提供前にサービス提供責任者からサービス利用者を担当する訪問介護員などに対して、利用者の情報やサービス提供に当たっての留意事項を文書などで伝達し、サービス提供終了後に担当した職員から報告を受けることが必要です。

これを一般的に特定事業所加算の算定要件における「指示(伝達)・報告」といいますが、満足のいく指示・報告体制が構築できていない場合や、そもそも何をどのようにおこなったらいいかわからない方もいるのではないでしょうか。

今回は、特定事業所加算の指示・報告の算定要件を効率的に満たすための方法と様式の例や注意点を解説します。特定事業所加算を継続的に運用するには細やかな注意が必要なのでぜひ最後まで読み、参考にしてください。

目次

特定事業所加算の算定要件

要介護度の高い・支援が困難なご利用者に対しても、質の高い介護サービスを提供することで事業所に対して支払われる加算を特定事業所加算といいます。

なお、介護保険では「訪問介護」「居宅介護支援」の事業で加算の算定ができ、訪問介護での加算率は下記の5つです。

  • 特定事業所加算Ⅰ:総単位数プラス20%
  • 特定事業所加算Ⅱ:総単位数プラス10%
  • 特定事業所加算Ⅲ:総単位数プラス10%
  • 特定事業所加算Ⅳ:総単位数プラス5%
  • 特定事業所加算Ⅴ:総単位数プラス3%

 

Ⅰ~Ⅴの分類は、どれだけ算定要件をクリアできているかで変わり、すべての要件を満たした事業所は最も加算率が高い「特定事業所加算Ⅰ」が算定できます。

  1. 訪問介護員等ごとの研修計画の作成、計画に基づく研修の実施
  2. 利用者に関する情報、サービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催
  3. 利用者に関する情報等の文書等による伝達、訪問介護員等からの報告
  4. 健康診断等の定期的な実施
  5. 緊急時等における対応方法の明示
  6. サービス提供責任者ごとの研修計画の作成、計画に基づく研修の実施
  7. 訪問介護員等が以下のいずれかを満たす
    介護福祉士の占める割合が30%以上
    介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者の占める割合が50%以上
  8. 全てのサービス提供責任者が以下のいずれかを満たす
    3年以上の実務経験がある介護福祉士
    5年以上の実務経験がある実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者
  9. 常勤のサービス提供責任者を配置し、基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置
  10. 訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の占める割合が30%以上
  11. 利用者のうち、要介護4以上、日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする利用者の占める割合が20%以上
  12. 利用者のうち、要介護3以上、日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする利用者の占める割合が60%以上

*:7.または8.の要件のいずれかを満たすこと

参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」

上記のようにさまざまな要件がありますが、その中で今回は「文書等による指示及びサービス提供後の報告」について詳しく説明します。

なお、訪問介護における特定事業所加算の算定要件を詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

訪問介護の特定事業所加算を算定するための要件とは?Ⅰ~Ⅴまでの取得方法を解説

指示・報告する内容

実際に下記のような内容をサービス提供の前後に必要な指示・報告をする必要があります。

サービス提供に当たっての文書等による指示

サービスの提供に関して特定事業所加算の算定要件を満たすためには、サービス利用者に関する情報や留意事項について、サービス提供責任者からサービス提供の担当者に対し、サービスの提供前に伝達がおこなわれる必要があります。

サービスの提供にあたって事前に必ず伝達しなければいけない事項は以下の通りです。なお、伝達の際にはサービス利用者の変化の動向を含めて記載しなければいけません。

  • 利用者のADLや意欲
  • 利用者の主な訴えやサービス提供時の特段の要望
  • 家族を含む環境
  • 前回のサービス提供時の状況
  • その他サービス提供に当たって必要な事項

なお指示の伝達方法について算定要件として提示されている内容には、「文章等」と指定がされていますが、FAXやメールといった手段も利用することが可能です。

サービス提供終了後の従業者からの報告

サービスの提供終了後は、サービス提供の担当者からサービス提供責任者に対して、必ず報告がおこなわれる必要があります。

また、報告を受けたサービス提供責任者は、報告内容を記録し、文章として保存しなくてはいけません。

参考:東京都福祉局「特定事業所加算の算定要件」

指示・報告はなぜ必要?

下記のような理由から指示・報告は必要です。

  • サービスの透明性と信頼性の向上
  • ご家族とのコミュニケーションの促進
  • ご利用者の健康管理と安全の確保
  • 介護計画の適時調整
  • 質の高い介護の実践

サービスの透明性と信頼性の向上

介護職員からの定期的な報告を行い、サービスの透明性と内容を明確にすることで、ご利用者・ご家族から介護を行う職員だけでなく、事業所全体の信頼が深まり、より良好な関係を構築できます。

ご家族とのコミュニケーションの促進

多くのご家族は、ご利用者の健康状態や普段の日常生活に対して関心が強い傾向です。そのため、定期的な報告を行うことにより、ご家族がご利用者の最新な状態や介護の状況を知ることができ、必要に応じて介護計画の調整や新たな介護サービスの追加などを提案できます。

ご利用者の健康管理と安全の確保

報告義務があると、訪問介護の際に観察された健康上の問題やリスクを、早期にご家族や医療提供者に伝えられるため、必要な医療を迅速に提供でき、ご利用者の健康管理と安全を確保できます。

介護計画の適時調整

介護サービスは、ご利用者の状態やニーズによって随時調整・変更する必要があります。このように、ご利用者にとって必要なサービスを実施できているかの判断材料として、介護職員からの報告は介護計画の適時調整を可能にし、ご利用者それぞれに対して最適なサービスを提供するために重要です。

質の高い介護の実践

訪問介護を提供した後に報告することで、事業所全体のサービスの質が向上し、より質の高い介護を実施できます。

指示・報告を効率よく運用するためのポイントは?

指示・報告は特定事業所加算を取得するためだけでなく、事業所全体の介護サービスを向上させるためにも重要な内容です。

しかし、上記で説明したように、実際の指示・報告内容は非常に細かいため、効率よく運用するためには下記のポイントを押さえておくことが重要です。

  1. 運用のためのルールや様式を作成する
  2. 運用が守られなかった場合の対応を検討しておく
  3. 介護ソフトやシステムを利用する

1.運用のためのルールや様式を作成する

指示・報告する内容が各職員によって異なってしまっては、効率よく運用できません。

そのためには、事業所内において下記のようなルールを作成しておくことが大切です。

  • 介護計画に基づく具体的な指示を、どのように・いつ・誰が出すかを決める
  • 緊急時の対応手順を含め、迅速な意思決定の流れを確立する
  • 定期報告のスケジュールとして、サービス提供後の報告の頻度と形式を定める
  • 事例報告で、特別な事例や緊急事態が発生した場合の報告手順を設定する
  • サービス内容、利用者の反応、特記事項を記載するための標準化されたフォーマットを作成する
  • 介護計画に基づく具体的な指示を文書化するための様式を作成する
  • 新しいルールや様式の使用方法についてスタッフをトレーニングする
  • 指示と報告のプロセスが効率的に運用されているかを定期的に評価し、必要に応じて改善策を講じる
  • 介護職員やご利用者からのフィードバックを集めて、システムの改善に活用する

2.運用が守られなかった場合の対応を検討しておく

指示・報告において特定事業所加算の算定要件を満たし続けることは、簡単なことではありません。
そのため、万が一運用が守られなかった場合の対応を検討しておくことが重要です。

具体的な対応策は下記のように進めれば検討しやすくなるはずです。

  1. 問題の特定と評価:どのような問題が生じているのかを正確に特定し、その原因を分析し、事業所やご利用者にどのような影響があるかを評価する
  2. 即時対応:問題が他の部分に影響を与えないように、即時の緊急対策を実施し、問題解決に努めます。
  3. 内部コミュニケーション:問題に関する情報をスタッフへ伝達し、問題解決に向けた各スタッフの役割と責任を明確にします。
  4. 関係者への報告:問題とその影響についてご利用者・ご家族に報告します。その後、必要に応じて関連する監督機関への報告も行い指導を受けます。
  5. 改善策を考える:問題の根本原因に対処するための改善計画を考え、必要に応じて改善します。
  6. モニタリングと評価:改善策が効果的かどうかを評価し、見直しを行います。
  7. スタッフの再教育:問題を防ぐためのスタッフの教育とトレーニングを実施し、再発防止に努めます。

3.介護ソフトやシステムを利用する

ここまで紹介した内容から分かるように、特定事情所加算を運用するのに、人的管理だけでは、思ってもいなかった所でのミスが生じる場合もあります。
そのようなミスを少しでも減らすために介護ソフトやシステムを利用することは下記のように非常に有効的です。

  • 介護記録作成の効率化
  • 情報を整理できる
  • 申し送り・引継ぎの効率化

介護記録作成の効率化

訪問介護のサービスだけでなく、指示・報告内容でさまざまな記録を残す必要がありますが、紙に手書きで書くとなると作業量も膨大です。
しかし、介護記録ソフトを導入すると、記録の入力を省力化することができるだけでなく、入力した記録がそのまま他の書類に連動するため書類作成を効率的に行えます。

情報を整理できる

紙・ファイルで情報を管理していると、知りたい情報を探すのにどうしても時間がかかってしまいますが、介護記録ソフトに情報を入力し保管することで、整理された情報の中から、簡単に必要な情報を検索できます。
例えば、「何月何日の、このご利用者のサービス利用状況を知りたい」となっても、検索すれば知りたいデータをすぐに閲覧できます。

申し送り・引継ぎの効率化

申し送りをする際、申し送り書などに転記をしたり、個別に連絡する必要がありましたが、介護記録ソフトを導入することで、申し送り事項を介護記録ソフト上で入力し、それを別のスタッフが確認することで申し送り・引継ぎの効率化を図れます。

運用に向けた指示・報告の様式例

特定事業所加算の運用に向けた「文書による指示およびサービス提供後の報告」は決められた様式がないため、各事業所で作成する必要があります。

作成する際は、必ずサービス提供前に介護職員へどういった指示をいつ行ったのか?また、サービス提供後に介護職員からどういった報告をいつ受けたのか?を記入する必要があります。

その他にも下記のような項目を満たしておく必要があります。

記載すべき内容の例

  1. 利用者氏名
  2. サービス実施日時
  3. 伝達のタイミング
  4. 報告のタイミング
  5. 伝達者の氏名
  6. サービス実施者
  7. 伝達内容
  8. 報告内容

伝達すべき内容

伝達の内容は、少なくとも以下の事項について、その変化の動向を含めて記載(伝達)していることが必要です。

  1. 利用者のADLや意欲
  2. 利用者の主な訴えやサービス提供時の特段の要望
  3. 家族を含む環境
  4. 前回のサービス提供時の状況
  5. その他サービス提供に当たって必要な事項

※4は毎回必ず記載(伝達)すること(注:伝達内容が毎回「著変なし」等となっているような場合は、実質的には伝達(指示)を行っていないものとして返還(過誤)対象となる場合があります。(4以外の事項は、初回および変化があった場合のみ記載することで可)

また、伝達はサービス提供責任者がサービス提供の都度、文書等の確実な方法により伝達しなければなりません。

指示・報告をおこなう際の注意点

下記の点には注意が必要です。

  • 報告に不備がある場合、加算の返還対象となる可能性がある
  • 文章等の確実な方法で指示・報告する必要がある

報告に不備がある場合、加算の返還対象となる可能性がある

報告など算定要件の不備があれば、運営指導で指摘を受け、加算の返還対象になる可能性があります。

なお、1人でも運営基準減算が見つかれば、全員分が返還になるため、数百万〜数千万円と多額の返還を求められる場合もあります。

文章等の確実な方法で指示・報告する必要がある

指示・報告の算定要件を満たすためには、必ず文章等の確実な方法でおこなう必要があります。業務の多忙さから指示・報告を口頭で終わらせたくなる気持ちはわかりますが、特定事業所加算の算定要件を満たすためには、記録に残る形式で指示・報告をおこなわなくてはいけません。

なお、指示・報告の方法に指定はありません。FAXやメール、介護システムの利用などでも構いませんが、記録が残る形式で実施するように注意してください。

指示・報告についてのよくある質問

指示・報告について下記のような質問があるため、代表的な内容をお答えします。

1.指示を出すタイミング、報告を受けるタイミングはいつ?

指示と報告のタイミングは次のとおりです。

  • 指示はサービス提供前に行う
  • 報告はサービス提供後に受け取る
  • 報告は速やかに受け取る

報告をもとに、「前回提供時の様子」を毎回伝達する必要があるため、原則、報告を受けるタイミングはサービス提供後速やかに受けることが必要です。

2.サービス提供責任者は深夜や休日にも指示・報告を行う必要がある?

厚労省発のQ&Aで、「サービス提供責任者が公休の場合や勤務時間外の場合等に限り、文書等による事前の指示を一括で行い、サービス提供後の報告を適宜まとめて受けることも可能である。」とされています。

この場合は、運営指導で実際に公休であったことを証明する必要があります。

3.特定事業所加算の申請時にはどのような書類を提出する?

実際に指示、報告のやり取りをした記録が確認される場合があります。
サービス提供前に指示、提供後に報告が入っているかなどが確認のポイントです。

4.介護システムなどを利用せずに運用することは可能?

利用しなくても運用は可能ですが、人的なミスなどにより、加算の返還対象になる可能性もあることを考えれば、介護システムなどを利用するのがおすすめです。

まとめ:指示・報告を効率的に運用するなら介護システムの導入がおすすめ

今回は、特定事業所加算の指示・報告について紹介しました。

指示・報告を含めた特定事業所加算の運用を継続的に実施するには、書類での管理は非常に困難です。

そのため、今回をきっかけに、ぜひ介護システムの導入を検討して指示・報告を効率的に運用してください。

 

お役立ち資料:加算取得を目指す方へ

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