日本は、2007年頃から65歳以上が21%以上を占める超高齢化社会です。高齢化に伴い、自宅や施設などの居宅で療養生活を送る高齢者も年々増えています。
しかし、高齢者は複数の医療機関を受診したり、多種類の薬剤が処方されるなど自己管理が困難な場合も多いです。さらに認知機能や記憶力、身体機能の低下といった加齢に伴う変化により、薬に関する問題が起きやすくなります。そこで平成12年には介護保険による居宅療養管理指導が認められるようになり、居宅でより良い療養生活を送るための支援が可能になりました。
今回の記事では、居宅療養管理指導とはなにか、居宅療養管理指導における薬局薬剤師の役割や仕事内容、算定要件、点数(単位数)などについて詳しく解説します。
目次
居宅療養管理指導とは、要介護状態の患者が可能な限り、自宅や施設などの居宅で自立した療養生活を送るために行うサービスです。
医師、歯科医師、薬剤師、栄養管理士又は歯科衛生士などの医療従事者が、通院することが困難な患者の居宅に訪問し、療養上の管理や指導を行います。
居宅療養管理のサービス内容や、メリットなどについては、こちらの記事を参考にしてください。
居宅療養管理指導において薬局薬剤師は居宅へ訪問し、患者が薬を適切に服用できるよう管理や指導を行います。
薬局薬剤師が関わることで、薬物有害事象の発見、薬物有害事象への対処と症状の改善、服薬状況の改善効果が期待できるため、意義は大きいです。
薬局薬剤師の3つの意義について、それぞれ解説します。
薬物有害事象とは、医薬品との因果関係を問わず、医薬品を使用した患者に生じたあらゆる好ましくない有害な兆候や症状を指します。
居宅で療養生活を送る患者は、高齢者が多いです。
高齢者は複数の疾病を合併していることによる多剤内服、記憶力や理解力の低下、視覚や聴覚機能の低下など原因から、内服薬の飲み忘れや飲みすぎなど適切な容量や用法を守ることが困難な場合も多いです。
そのため、薬物有害事象の発生のリスクが高くなります。
厚生労働科学研究「地域医療における薬剤師の積極的な関与の方策に関する研究」によると、5,105人の患者のうち14.4%の患者に発生した薬物有害事象が、薬剤師によって発見されています。
参考:厚生労働省
薬局薬剤師は居宅療養管理指導を行う際に、患者や家族とコミュニケーションをとりながら状態を観察し、副作用を含め薬物有害事象の有無に関する情報を引き出します。
複数の医療機関を受診している患者の場合は、薬が重複して処方されていないか、飲み合わせに問題がないかも併せて確認します。
何らかの症状や体調の変化がある場合は情報を医師と共有し、患者の状態に合わせた薬を提案することも薬剤師の重要な役割です。より効果的な投薬ができるようサポートすることが、患者の症状改善に繋がります。
在宅で療養生活を送る患者には、薬剤の自己管理の難しさや飲みにくさから服薬状況に問題がある場合も多いです。
居宅療養管理指導で薬剤師が介入することにより、一包化や投薬カレンダーの使用など患者それぞれの能力に合わせた方法で薬剤管理ができるよう支援します。
また飲みにくさが問題となっている場合は、患者の嚥下能力も考慮した上で適切な薬の形態を医師に提案することで、服薬状況の改善に繋がります。
居宅療養管理指導に関わる薬局薬剤師は、実際にどのような業務を行っているのでしょうか。
今回は、薬局薬剤師の主な仕事内容を3つご紹介します。
在宅患者の服薬管理や指導は薬局薬剤師の主な仕事の1つです。
患者が自分で薬を管理することが困難な場合は、医師に相談の上で必要な薬を一包化する、おくすりカレンダーなどを使用し服用する日付と時間に分けて保管するなどの支援を行います。
患者が服薬できない理由に合わせて服薬支援を行うことも大切です。何の薬かが分からず飲んでいない方には、効果が理解できるように説明します。
錠剤やカプセルなど薬の形状が理由で飲めない方には、粉砕や嚥下ゼリー、オブラートの使用などを患者の状態に合わせて医師に提案し、内服しやすくなるよう支援します。
薬の保管方法や服用方法を指導する際は、薬の効果や副作用についても説明します。
服薬中は、副作用を含む体調変化の有無を確認し、飲み間違いや飲み忘れがあった場合にはフォローを行うことも薬局薬剤師の仕事です。
薬剤師による服薬指導は対面で行うことが法律で定められていましたが、2020年9月からオンライン服薬指導が始まりました。
状態が安定している慢性疾患の患者で、服薬状況や薬の管理が良好な場合はオンラインでの服薬指導はメリットになるといわれています。
例えば、新型コロナに対する感染対策を十分に行っていたとしても、訪問者によるウイルス持ち込みの可能性はゼロではありません。
しかしオンラインでの服薬指導を行うことで、不安が解消されることもメリットの1つです。
居宅療養管理指導には薬剤師だけでなく、医師や歯科医師、管理栄養士など多職種が介入していることも多いです。
また、ケアマネジャーや訪問介護員などの職種も在宅患者の療養生活を支えています。
薬剤師にとっては、関わっている多職種と連携し、患者の療養に必要な情報を共有することも重要な業務の1つです。
薬剤師は訪問後に、実施した薬学的管理と指導の内容などを記載した訪問薬剤管理指導報告書を作成し、医師や歯科医師、ケアマネジャーに情報提供を行います。
また患者本人だけでなく家族や訪問介護員など介護に関わる方にも、服用している薬について分かりやすい説明で情報提供します。
居宅療養管理指導における薬局薬剤師の点数は下記の通りです。
単一建物居住者数 | 点数(単位数) |
1人 | 517単位 |
2~9人 | 378単位 |
10人以上 | 341単位 |
令和3年度の介護報酬改定によって、単一建物居住者数が1人の場合と2〜9人の場合は単位の引き上げが行われました。
反対に、単一建物居住者数が10人以上の場合は単位の引き下げとなりました。
また、令和3年度の介護報酬改定より、情報通信機器を用いたオンライン服薬指導の評価が新設されました。月1回を限度に45単位の算定が認められています。
参考:厚生労働省
薬局薬剤師以外の医師や歯科医師の点数については、こちらの記事を参考にしてください。
居宅療養管理指導の点数・単位数の算定方法まとめ!加算算定率はどのくらい?
居宅療養管理指導の算定要件は、職種ごとに定められています。
薬局の場合は以下の通りです。
医師または歯科医師の指示により薬剤師が作成した薬学的管理指導計画に基づいて患者の居宅を訪問し、薬学的な管理指導を行い、医師又は歯科医師に訪問結果を文書で報告するとともに、ケアマネジャーや介護支援専門員に対して居宅サービス計画の作成に必要な報告及び情報提供を行った場合、1か月に4回を限度に算定できます。
末期の悪性腫瘍患者、中心静脈栄養を受けている患者に対しては、週2回かつ月8回を限度に算定することができます。
また、2021年の介護報酬改定により、薬局薬剤師が情報通信機器を用いた服薬指導を行った場合に限り、居宅療養管理指導の算定が可能になりました。
薬機法施行規則及び関連通知に沿って実施し、訪問診療を行った医師に情報通信機器を用いた服薬指導の結果を報告した場合、月1回を限度に1回につき45単位が算定できます。
参考:厚生労働省
薬局以外の算定要件についてはは、こちらの記事を参考にしてください。
居宅療養管理指導の算定要件を徹底紹介!費用や加算算定率はどのくらい?
居宅療養管理指導は、自宅だけでなく施設に入居している患者も対象になる場合があります。
ただし、医師または薬剤師の配置義務がある施設は居宅療養管理指導の算定ができないため注意が必要です。
医師又は薬剤師の配置義務の有無を施設ごとにまとめました。
配置義務 | 居宅療養管理指導 | |||
医師 | 薬剤師 | |||
介護老人保健施設 | 〇 | 〇 | × | |
特別養護老人ホーム | 〇 | × | × | |
養護老人ホーム | 〇 | × | × | |
軽費老人ホーム | A型 | 〇 | × | × |
B型 | × | × | 〇 | |
有料老人ホーム | × | × | 〇 | |
高齢者専用賃貸住宅 | × | × | 〇 | |
認知症高齢者グループホーム | × | × | 〇 |
さらに、現在他の医療機関又は薬局薬剤師が居宅療養管理指導を行っている場合や、保険薬局の所在地と患者の居宅の距離が16キロメートルを超えた場合も居宅療養管理指導費の算定はできません。
参考:厚生労働省
居宅療養管理指導における薬局に関する質問で多いのは、以下の3点です。
・居宅療養管理指導を薬局薬剤師が処方箋なしで行った場合算定することはできますか?
・居宅療養管理指導で薬局薬剤師が情報提供することを求められる「ケアプランに必要な情報」とは何ですか?
・薬局薬剤師が行う居宅療養管理指導の算定に必要な間隔は何日ですか?
それぞれについて具体的に回答します。
薬局薬剤師は医師や歯科医師の指示を受けて、居宅療養管理指導を行います。
処方箋に基づいて調剤した薬や衛生材料、医療機器を届け、管理することが主な業務の1つです。
訪問前に処方箋の備考欄に医師や歯科医師から訪問指示の記載があることを確認した上で、薬学的管理指導計画に沿って服薬指導を行います。
このように、薬局看護師が居宅療養管理指導を行うためには処方箋が必要となるため、処方箋がない場合は算定ができません。
薬局薬剤師が居宅療養指導を行った場合、薬剤服用歴の記録を作成し、医師又は歯科医師に報告した上で、ケアプランの作成に必要な情報をケアマネジャーに提供する必要があります。
薬剤服用歴の記録には以下の内容を記載する必要があります。
・利用者の氏名や生年月日などの個人情報
・処方や調剤に関する記録
・患者のアレルギーの有無、副作用歴
・患者の既往歴、合併症など疾患に関する情報
・患者又は家族からの相談事項の要点
・服薬状況や服薬中の体調変化
・処方医から提供された情報の要点
・服薬指導の要点や訪問時に実施された薬学的管理の内容
薬局薬剤師による居宅療養管理指導を月2回以上算定する場合(末期の悪性腫瘍患者および中心静脈栄養を受けている患者に対するものを除く)、算定に必要な間隔は6日以上と定められています。
末期の悪性腫瘍患者及び中心静脈栄養を受けている患者に対しては、週2回かつ月8回を上限に算定できます。
高齢化が進むにつれ、居宅療養管理指導の必要性はますます高まっていくでしょう。
居宅を訪問することで薬局や病院では気付けなかった服薬上の問題を見つけ、解決のための支援ができる薬局薬剤師の需要は今後も増えていくことが予想されています。