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介護業界のM&Aと動向 【買収の視点】

2021-11-24

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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この記事では、介護業界のM&Aについて買収の視点からご紹介します。

介護業界について

介護業界について

高齢化の進展とともに要介護認定者数・介護サービス利用者数は速いペースで増加しています。
高齢者人口は今後も着実に増えていくと予想され、介護サービスの需要が拡大していくことは間違いないとされてきました。

社会保障給付費は増加の一途をたどっており、社会保障を支える生産年齢人口(生産活動の担い手となれる人の数)は年々減少しており、『介護』というライフラインを担う介護従事者は未だ『低賃金』と呼ばれ、専門職ながら医療従事者とは大きく待遇が異なります。

岸田内閣になり、『介護従事者の賃金改善』が話題となっていますが、『職員の給与にのみ使用することができる』というお金を得るために、複雑な事務作業を行うための職員を雇い、介護従事者は多少の賃金を得る代わりに経営者が経費をさくというのが実情です。

近年の介護報酬改定は適正化(切り詰め)を基本方針としており、これは今後も継続されます。
また、高齢者・外国人材などの多様な労働力の活用や、ICT・AI・ロボット導入による生産性の向上といった案が進められています。

介護業界のM&A市場とは?

中小企業の経営者平均年齢が60代といわれる中で、介護業界のM&A市場は以下のような特徴があります。

①規模拡大による収益性・効率性向上を目的とした大手企業(既存大手・新規参入大企業)やファンドによる介護事業者の買収

②サービスの多様化・高付加価値化・効率化を目的とした関連業種・異業種の参入

③介護向けICT・AIシステムや介護ロボットを開発する企業への大手企業・ベンチャーキャピタルによる出資

人材が存在することで売上が生まれる業界の特徴から、『採用』という不確実な投資を行うより、M&Aという確実に人材確保が可能な手段を選択するというのが介護業界のM&Aにおける特徴です。

また、介護業界を担う人材は介護に特化した『専門職』で構成されています。

ここに『生産性の向上』を取り入れようと、介護業界も異業種とのM&Aに積極的であるというのも見逃してはいけません。

介護業界ならではの買収リスク

通常のデューデリジェンスでは、決算書をはじめ経理、人事、労務周り、不動産や紛争関係等の書類を確認しますが、介護事業を買収する際は追加で介護保険法及び厚生省令に則った業務運用を行っているかを確認する必要があります。

実際の業務運用書類を確認しなければ、潜在リスクやそのリスク額を把握する事が出来ず分析も出来ません。

少なくとも直近3年間の業務員用書類を確認し、どのようなリスクで、いくらの返還額が想定されるのかを把握しなければ、買収後に大きな損害を受ける可能性も潜んでいます。

潜むリスクの具体例

介護事業を運営する企業の中小企業では、介護業務以外に手を避ける人材が配置できず、コンプライアンスを遵守して業務運用を行えている事業所は稀です。

教育も儘ならない状態で法令の知識を持つ人材はおらず、日々の作業をこなすためのサポートとして専門知識のない事務員を配置しているのが現状です。

この状態で売り上げをあげてきた企業は、その売上すべてが返還となり得るリスクを抱えていると言っても過言ではありません。

■処分事例

省令上必要と定められた書類を、作成する事を知らずに介護サービスのみ提供していた

⇒作成していない期間から現在まですべて返還

 

不正なサービスを、不正と知らずによかれと思って提供していた

⇒不正サービス部分の売上額すべて返還

絶対に買ってはいけないのはこんな企業

M&Aを行う際は、仲介企業が仲介を行う事が多いです。

この仲介業者は介護企業に関する知識があるわけではありませんので、『一般のM&Aの際に行われるデューデリジェンスの書類』を整えるお手伝いは出来ますが、介護に特化した書類の準備は出来ません。

介護に特化した業務運用書類が準備出来ない状態であれば、提示されている売上すべてが返還の対象となり得る状態ですので、このような企業を買収する事には大きなリスクを伴います。

また、このような状態で働いてきた職員は、買収先でコンプライアンスを守る業務を指示された場合に大きなギャップを感じ、退職へとつながる可能性が大いにあります。

介護事業の買収目的の大部分を占める『人材の確保』にも、大きな影響を及ぼすことも忘れてはいけません。

絶対買ってはいけない企業の具体例

①介護に特化した業務運営の書類が出せない

訪問介護事業を運営するにあたっては、守るべきルールが省令で定められています。

これらの書類が出せない場合は、『違反した運営を行っている』という状況です。

指定の取り消し等重い処分を受けるリスクが有りますので、買収はこれらを覚悟して行わなければいけません。

②人材に関する書類が出せない

訪問介護事業には人員基準と呼ばれる人材配置の基準が有ります。

職責ごとにその保有すべき資格が定められており、これを持たない従業員が介護サービスを実施しても介護報酬を得る事は出来ません。

しかしながら、資格を保有しないで介護サービスの提供を行い、報酬を得ているケースが有りますので、資格に関する書類が適正かを確認する必要があります。

③売上が直近で上がっている

売上が直近で上がっている場合、仲介会社が支援した結果である可能性が高いです。

『売り上げをあげることが出来る人材』を、買収の副産物として考えている様であれば、ここには注意が必要です。

最後に

介護業界で働く従事者は『介護』という世界において専門職です。

買い手側に期待するのは『専門職として尊重してもらえるか』『専門職として意見を聞き入れてもらえるか』『これまで培ってきた専門職としての経験が生かされるか』という事であり、経営者本人はもちろん、従業員やご利用者がないがしろにされたり、商売の道具にされるような恐れのある会社へ買ってほしいとは思えません。

買い手側はこれまで培ってきた専門職としての経験を尊重しながら、しっかりと潜在リスクを把握しなければいけません。

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